-大震災は自動車関連産業に深刻なダメージを与えた。
「東北の自動車関連企業の取引先、納入先は、東京電力の計画停電エリアである関東地区が圧倒的に多い。県内企業も、自社の被害はほとんどなかったにもかかわらず、取引先の生産調整に伴う影響を大きく受けた。さらにサプライチェーン(部品の調達・供給網)の寸断などでさまざまな部材の調達が困難になった。当初は高速道路や鉄道が使えないといった運搬の問題が大きかったが、最近は関西などにおける在庫確保の動きが全国的な品薄状態を招いているようだ」
-安定的な部品調達を最優先するメーカー側が、東北以外の地域に調達先を変えたり、生産拠点を海外に移す動きなどが懸念されている。
「一時避難と言いながら、恒久避難になってしまうことが一番怖い。また、これまでは部品を現地調達する方針が各メーカーにあったが、今後は、共倒れを防ぐために離れた地域から調達する“クロス調達”や、リスクを分散させる“2社発注”の傾向が強まるかもしれない。海外での部品調達率を高める動きもあり、国内の部品メーカーにとっては脅威となっている」
-こうした中で県内の自動車関連企業に求められることは。
「クロス調達や2社発注の動きは、これまで独占的に受注していた部品メーカーにとってはリスクだが、他のメーカーにとっては新たに参入できるチャンス。本県がこれまで入れなかった三河・名古屋地区にも入り込める可能性が出てくるかもしれない。発想や視点を変えていく必要がある。国内だけに目を向けていてはだめで、グローバルな展開は避けて通れない。海外に進出する道もあれば国内で頑張る道もある。各メーカーとも重要保安部品の生産は依然国内に残しており、これからも国内調達は続くだろう。そうした分野で生き残っていけるはずだ。ただ、期待に応える技量と信頼性、安定供給できる経営体制、社員教育のすべてがそろわないと受注すらできない。それらをきちんとレベルアップしていくことが大事だ」
-業界として取り組むべきことは。
「従来の価格より2割以上安くなければメーカーにとって部品調達先を変更するメリットはないと言われている。乾いたタオルをさらに絞るようなコスト削減を続けている三河・名古屋地区と競争するには、1社だけ頑張っても無理で、地域や協力会社全体がまとまって売り込んでいく必要がある。山形が一つのグループとなり、まとまった部品を納めるのも一つの手法だろう。グループ内の核となる企業が取引窓口となり、出荷検査や品質保証、クレーム対応に至るまで全面的な責任を持って納品する仕組みにすることで、メーカー側は、さまざまな部品をいちいち交渉する手間や事務コストを掛けなくても、窓口企業を通して効率的に調達できるメリットがある。岩手の自動車産業や秋田の航空機産業ではすでに取り組んでいる。本県にもビジネスチャンスはある。大事なのは踏み出すかどうかだ」
次回は児玉賢一・県百貨店協会長です。
エムテックスマツムラの長谷川征男副社長