東日本大震災発生の2日前、3月9日に宮城県沖でマグニチュード(M)7.3の地震が起きた。これを前震ととらえ、巨大な本震が迫っていると予測することはできなかったのだろうか。「われわれは決定的な間違いを犯した」。東北大学地震・噴火予知研究観測センター長の海野徳仁教授は苦渋の表情を浮かべた。
東北大の大震災3カ月後報告会で、地震発生のメカニズムについて発表する海野徳仁教授=仙台市・仙台国際センター
海野教授は震災当日の3月11日、マスコミのインタビューに答え、「想定宮城県沖地震はもう待ったなしだ」と警告を発した。しかし、それは最大でもM8クラスの想定だった。東日本大震災はM9という超巨大地震。マグニチュードは1増えるとエネルギーは32倍になる(日本地質学会編著「地震列島日本の謎を探る」)とされ、全く別次元のものだった。
近年の研究で、地震発生のメカニズムは従来の2次元的な理解から、立体的なモデルで考えられるようになってきた。その中で注目されるのがアスペリティという考え方だ。地震を引き起こす接触面は均一ではなく、ゆっくり滑る領域と、固着した領域がある。固着した面をアスペリティと呼び、この部分が地震を引き起こすという理論だ。大きいアスペリティがある部分は固着度合いが強くエネルギーをためやすい。だから、ここが破壊されると、大きい地震につながる。
海野教授は続ける。「この100年間、福島から茨城沖では大きな地震が起きていなかった。そこで、われわれはこの場所にはアスペリティがないと思ってしまった」。アスペリティがなければ大きな地震は起きない。「自分たちは残念ながら100年分のデータしか持っていない。それで決定的な間違いを犯してしまった」
今回の震災では、年8センチの速さで迫ってきた太平洋プレートの圧力が一気に解放された。これによって、東北周辺で大地震が発生する可能性は低くなったのだろうか。ところが、ことはそう単純ではない。「元に戻ろうとする際、地震を引き起こす場合もある。また、東日本は北米プレート上にあり、日本海側ではユーラシアプレートが沈み込んでいる」(海野教授)。つまり、東北地方は東からだけでなく、西からも圧力を受けている。
東日本大震災が本県に与える影響はどうか。「山形では震災以降、地震がほとんど起こっていないが、今後も起こらないとは限らない」。震災前まで、海野教授は「宮城県沖地震のしっぽをつかんだ」と思っていたという。しかし…。「東日本大震災で日本列島への力のかかり具合が変わってしまった。われわれは地震の本性をまだつかみ切れていない」
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