五百川(いもがわ)峡谷を流れる最上川本流に建設された朝日町の上郷ダム(上郷発電所)は活断層に挟まれるような場所に位置する。長井盆地西縁断層帯を構成する宮宿-常盤断層だ。国土地理院発行の都市圏活断層図「左沢」では、おおむね北北東方向に、断層を示す赤いラインが4本記載されている。そのうち東側の2本の、ちょうど真ん中にあるのが上郷ダムだ。
ダム堤そのものは断層上にあるわけではないが、4本のうち東端の1本はダム湖を横切るように走るとみられ、都市圏活断層図には伏在断層を意味する赤い点線が引かれている。
“津波”の恐れ
政府の地震調査研究推進本部がまとめた長期評価によれば、長井盆地西縁断層帯の今後30年以内の発生確率は0.02%以下。県内の主要断層帯の中では最も危険度が低いが、「万一地震が発生した場合はダム湖の縁が地滑りを起こして津波のような現象が発生、水が堤を越えてあふれ出す恐れがある」。山形大の八木浩司は指摘する。
上郷ダムは最上川本流に建設された唯一の発電用ダムだ。増え続ける電力需要に対応するため、1962(昭和37)年に運転を開始。出力は1万5400キロワット、堤高23.5メートル、総貯水容量は766万立方メートルだ。
寒河江川の上流にある寒河江ダムの総貯水量は1億900万立方メートルで、これに比べれば規模は極めて小さい。しかし、上郷ダム下流には集落もあり、断層がダム湖を横切るという認識だけは持っておく必要がある。
朝日町の上郷ダム周辺を走る活断層(白い矢印)。ダム堤を挟み込むように位置している(八木浩司氏提供)
本体破壊なし
東北電力によると、上郷ダムでは定期的にパトロールを実施。特に水量の多い6~10月には24時間常駐し点検を強化している他、月1回、護岸などに異常がないか詳細な巡視も行っている。同社土木建築部課長の高橋均は「阪神大震災後に出された国の指針や東日本大震災後の新たな知見を踏まえ、地震対策を検討しているが、ダム本体は大地震が発生しても破壊されないと判断している」と話す。
東北電力は2004年3月、新潟県糸魚川市の大所川第三発電所を廃止した。運転開始は上郷ダムと同じ1962年だが、「大所川一帯は地滑りによって発電設備が変形するなど継続的に影響を受け、設備の補修・補強が限界に達した。一方、上郷ダムは地滑りが継続しているわけではなく、事情が違う」と高橋。「東日本大震災後、電力需給は逼迫(ひっぱく)しており、水力発電所が果たす役割は大きい。環境に優しい貴重な自然エネルギーでもあり、廃止の予定はない」
八木は「地震が原因ではないが、イタリアでは1963年にバイオントダムが大規模な地滑りによって、貯水湖から押し出された水が津波となり、多くの犠牲者が出た」と語る。近い将来、上郷ダム周辺の活断層が再び大地を揺らす可能性は低いとはいえ、相手は予測不能の大自然。謙虚に、入念に、万一に備えることを忘れてはいけない。=敬称略
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