東日本大震災は海溝型の地震だ。太平洋プレートが陸側プレートの下にゆっくり沈み込み、ひずみがじわじわと蓄積。限界に達して陸側プレートが一気に跳ね上がったことで起きたとされる。この発生メカニズム、実は蔵王温泉の源泉と密接な関係がある。
硫黄分が証拠
温泉誕生の鍵を握るのが太平洋プレートの沈降。大地震を伴う、こうした地殻変動がなければ、蔵王には温泉がなかったかもしれないのだ。
「山形県 地学のガイド」(コロナ社)によると、現在の蔵王温泉街やその周辺は、百万年前は火山体の内部にあった。この火山が大崩壊し、鍋底状に残ったのが蔵王温泉だ。
「蔵王温泉のお湯は何千万年も前の太平洋の海水が起源」。山形大名誉教授の山野井徹は語る。山野井によれば、温泉誕生の過程はこうだ。
(1)太平洋プレートが日本海溝付近で地中深くに沈む際、海水を含んだ堆積物も日本列島の下に斜めに沈み込む(2)その後、蔵王の下にマグマだまりが形成される(3)熱せられた水が上昇、温泉となる。「マグマは粘性があるので噴火でないと地上に出て来られないが、水はわずかな隙間を通じて上昇できる。太平洋の水が長い時間をかけて旅をして、地上に湧き出したのが蔵王温泉なんです」
もともとは海の水だった、という根拠は何か。雨水や雪解け水が地下に浸透し、地熱で温められただけではないのか。
山野井は説明する。「確かに雨水なども含まれるとは思う。しかし、蔵王温泉は硫黄分が豊富。硫黄があるというのは海由来であることの証拠で、仮に雨水や雪解け水だけなら、いまのような泉質にならない」
日本海溝と平行に位置する奥羽山脈。蔵王山は火山フロントの一角をなす(御釜上空から撮影)
海溝と平行に
日本列島の火山はおおむね規則的に整列。火山の分布地域の東端が描く曲線は「火山フロント(前線)」と呼ばれる。東日本では奥羽山脈が、ほぼ列島の中央に形成されており、ちょうど日本海溝と平行する。なぜ火山と海溝の位置が、まるで共鳴するように一致するのだろうか。その理由は火山ができる仕組みにある。
「活火山活断層 赤色立体地図でみる日本の凸凹」(千葉達朗著)によれば、陸側のプレートに沈み込んだ太平洋プレートは深さ120~130キロほどの地点で溶け始め、マグマを生み出す。やがて溶けて軽くなったマグマは地中を上昇し火山となって噴火。海溝でプレートが沈み込む角度はほぼ一定であるため、プレートが溶け始める距離もほぼ一定、このため、海溝とほぼ平行に火山フロントがあるという。蔵王山はその一角をなす。
災害と大自然の恵みは表裏一体だ。大地震を伴う地殻変動によって、日本列島が誕生し、山が生まれ、温泉が湧き、石油が産出する。われわれはそうした場所で生きている、いや、大自然に生かされている存在だ。「人間にとって人生の大半は恵みの時間。災害にしっかり備えてさえいれば、恵みを受け、人生を謳歌(おうか)できる」と山野井は話す。
東日本大震災は死者・行方不明者1万8千人を超す大惨事となったが、本県には大きな被害がなかったため「山形は安全」と考える人もいる。しかし、「3・11」は本県とも決して無縁ではない。開湯から1900年以上という、本県が誇る蔵王温泉が、そのことを教えてくれる。=敬称略
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