並行在来線(6) 見通せない将来経営~山形にフル規格新幹線を|山形新聞

山形にフル規格新幹線を

並行在来線(6) 見通せない将来経営

2017/4/5 10:15

 整備新幹線の取り扱いは政府・与党の合意形成が鍵を握っている。整備路線の位置付けや目標とする開業時期、予算規模は政府・与党の申し合わせでほぼ固まり、整備新幹線開業時にJRから経営分離される「並行在来線」も1990年の申し合わせが踏襲されている。奥羽、羽越両新幹線を「基本計画」から「整備計画」に格上げするには、ルールや整備スキームの方向性が決まる、この合意内容に沿線県の意向を盛り込む必要がある。整備実現は国政レベルでの交渉力に懸かっている。

 並行在来線の経営分離は、巨額の累積債務を抱えた旧国鉄を教訓に、JRの過重な負担を回避するのが狙いとされている。新幹線開業後、利用者の動きはどう変わるのか。移動時間が短縮され、乗り換えの不便性が解消される新幹線への流れは、容易に想像できよう。通勤通学に密接な並行在来線を引き継ぐ沿線自治体は、利用者減の状況で運営をスタートする。

 並行在来線の運営は、第三セクターなどが担う。九州は「肥薩(ひさつ)おれんじ鉄道」が1社で熊本、鹿児島両県の路線を維持しているが、東北(盛岡以北)・北海道、北陸両新幹線の場合は道県ごとに区切った区間を各社で運営する。一部は黒字計上しているものの、全般に経営は厳しい。高金利時代は基金運用益で将来経営を設計できた。だが、ゼロ・マイナス金利が続く現状で運用益は見通せない。大阪産業大の波床(はとこ)正敏教授は「線路を公有とし、運営会社の経営が人件費などで済むようにすれば、経営負担は軽くなる」と話す。

 奥羽新幹線は福島、山形、秋田3県を通過。羽越新幹線は富山、新潟、山形、秋田、青森の5県を結ぶ。沿線県全体を一つの広域圏と見定め、新幹線の整備効果が潤す地域経済、交流人口拡大への波及効果を検討、検証することが重要だ。2011年3月11日に発生した東日本大震災の教訓も忘れてはならない。甚大な被害に遭った東北地方太平洋側の救援、支援ルートは、本県など日本海側が担った。東京を経由せずに関西、西日本との国土軸をつくる羽越新幹線の役割も大切な視点になる。

 本県をルートとする2新幹線のフル規格化が実現すれば、奥羽本線、羽越本線が並行在来線の対象になる可能性は高い。奥羽、羽越の波及効果をどう引き出すかは、圏域全体での議論が不可欠だが、東北(盛岡以北)・北海道、北陸新幹線の開業と並行在来線の運営状況を参考に、県境部を山岳で隔てる本県の地形を考えれば、並行在来線の維持・運営は各県単位で運営会社を立ちあげる可能性もある。

 経営分離後の在来線を廃線・バス輸送に転換する選択肢もあるが、各県単位の第三セクターが経営を引き継ぐ場合、県境部の協議が課題になるだろう。高速交通を展望する上で、峠の克服は本県の宿命だった。新幹線と在来線が相互乗り入れする山形新幹線は福島県境部の大雪や大雨などで運休、遅延し、峠が信頼性の障害となっている。フル規格化はその障害を取り除くが、並行在来線となることで「峠の部分がなくなり、バス輸送になる可能性はある」と大阪産業大の波床(はとこ)正敏教授は推測する。

 並行在来線を運営するのは全国で8社。北海道の江差線木古内―五稜郭(ごりょうかく)間を運行する「道南いさりび鉄道」は赤字経営を覚悟で路線維持の道を歩み、北海道の自治体は今後の札幌延伸で経営分離区間をさらに抱え込む。石川県の「IRいしかわ鉄道」は営業区間の短さ(17.8キロ)が黒字計上の一要因だが、こちらも北陸新幹線延伸に伴い、金沢―福井県境間をIRに移管する方向で調整が進められている。

 JR北海道が札幌延伸後も小樽―札幌間を維持するように、整備新幹線で全ての在来線が経営分離されるわけではない。JRにとって「過重な負担」となる区間が第三セクターに受け継がれる。多くの自治体は駅を拠点にまちづくりを進めてきた。モータリゼーションの発展とともに道路網整備で街は郊外型に移行しつつあるとはいえ、駅を起点に中心市街地が形成されている。北海道、北陸両新幹線の沿線自治体が背負う並行在来線はどうなるのか。奥羽、羽越両新幹線のフル規格実現の時期に、一つの姿が見えているのかもしれない。

(「山形にフル規格新幹線を」取材班)

=テーマ「並行在来線」おわり

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