やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第7部・新しい旅のカタチ[6] ミュージアムツーリング(下)

2014/8/25 15:55
山形城主・最上家の馬具や明治天皇の行在所などが展示されている「わらべの里」。共通パスは各施設の貴重な収蔵品を知ってもらうきっかけになっている=山形市蔵王温泉

 複数の美術・博物館系施設が共通パスを発行し誘客につなげようという取り組みが、県内で行われている。先行例は天童市と山形市山寺、蔵王温泉の7施設の「宝の細道」。各施設の入館者が減少する中、連携により入館者を増やせないかという県の提案を受け、2008年度に実施母体を設立。天童市の広重美術館と天童オルゴール博物館(10年6月に閉館)の2館共通チケットを基に参加施設を増やし、09年度から販売する。

 共通パスと、それに合わせた共通パンフレット発行をきっかけに、各施設の収蔵品が広く知られるようになった。人気浮世絵師・歌川広重の作品群(広重美術館)、映画・舞台化された「絵草子 吉原炎上」で知られる画家斎藤真一の絵画シリーズ(出羽桜美術館分館)、ミレーの絵画やガレのランプ(後藤美術館)、明治天皇が東北行幸の際に休息された行在所や多様な古美術品(わらべの里)などの名作や貴重な品だ。

 「こんなに素晴らしい収蔵品があったとは知らなかった」。そんな感想が利用客から聞かれる。「多くの方に宝の存在を知り、驚かれ、うれしかった」と事業の土台をつくった元天童オルゴール博物館長の菅野昭義さん(64)は笑みをこぼした。有効期間も購入日から半年と長く、今月は天童、来月は山寺と、共通パスを手に仙台から何度も訪れる旅行者もいるという。

 県の助成は08年度の73万円のみ。行政支援がなくなると事業が終了するケースが多いが、7施設は売り上げの10%を翌年以降の共通パス、パンフレット発行のために積み立て、持続可能な仕組みを構築している。

 米沢市内でも五つの美術・博物館系施設に入館できる「観(み)るパス」が発行されている。割安料金で巡ることができるだけでなく、市内の飲食店や宿泊施設でも割引などのサービスが受けられる「おもてなしクーポン」を付けた点が大きな特徴だ。地域全体の経済効果を高める狙いがある。

観るパスのおもてなしクーポンが使える店舗でジェラートを味わう親子連れ。クーポン発行は地域全体の経済効果を高める狙いだ=米沢市・喜多屋果実店

 観るパスは、米沢上杉文化施設協議会が昨年、プレデスティネーションキャンペーン(DC)に合わせて初めて発行。有効期間はプレDCと同じ6月15日~9月14日だったが、DC本番(6月14日~9月13日)の今年は、5月31日~9月30日に延ばした。8月10日までに昨年の実績を15%上回る1312枚を販売している。

■「店知る機会に」

 おもてなしクーポンが使える協賛施設は、昨年が36カ所。全く利用されなかったところもあるものの、利用回数は全施設合計で350回を数えた。ジェラートの値引きを実施する米沢駅前の喜多屋果実店。クーポンを提示する客が時折訪れる。同店は「店を知ってもらう機会になればいい。そこから口コミで評判が広がることも期待できる」とする。協賛施設は今年、46カ所に増えた。

 観るパス発行による美術・博物館系施設の入館者数への効果は施設によって異なる。13年度は入館者数は増えても割引をした分、収入が減少した施設もあった。事務局を務める米沢観光物産協会の青木一成事務局次長(38)は「旅行形態の変化から全体として団体客は減少しているものの、山形DCで観るパスがターゲットとする個人客は増加傾向にある。販売枚数を伸ばし、各施設の収益にもつなげたい」と話す。

■事前周知が課題

 そのために課題になるのは、県内外で観るパスの存在を知ってもらうことだ。JRびゅう商品のパンフレットに掲載したり、大手旅行会社にPRしたりしているが、米沢に来てから知る人が大半だという。青木事務局次長は「観るパスの存在を事前に知ってもらえれば、米沢を訪れるきっかけにもなり得る。ホームページでの紹介や、宿泊プランとの組み合わせなどについて、協賛施設への働き掛けを強めたい」と続けた。

◆宝の細道 天童市の広重美術館、出羽桜美術館(分館を含む)、市美術館と山形市山寺の山寺風雅の国、山寺芭蕉記念館、山寺後藤美術館、同市蔵王温泉のわらべの里が連携。料金は1600円で入館料合計の半額以下。

◆観るパス 上杉神社稽照殿、上杉博物館、上杉家廟(びょう)所、宮坂考古館、東光の酒蔵の5施設に入館できる。料金は大人1200円。別々に入館するより670円低く設定されている。

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