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やまがた観光復興元年

第8部・DC検証[1] もてなしの態勢づくり

2014/9/17 13:58
列車に手を振る大宝幼稚園の子どもたち。かわいらしい歓迎に乗客も笑顔になった=鶴岡市

 13日まで3カ月にわたって展開された山形DCが閉幕した。本県観光の魅力を全国に集中的に発信する国内最大規模の観光誘客事業、DC。山形新聞、山形放送の8大事業「やまがた観光復興元年」第8部は、DCで展開されたさまざまな集客、受け入れ事業を検証し、今後につなげるための道を探る。

 子どもたちが列車に向かって笑顔で手を振る。それを見つけた乗客は、手を振り返したり、写真撮影したり。その反応に子どもたちはまた歓声を上げる。みんなが笑顔になった。

 JR羽越本線沿いに位置する鶴岡市の大宝幼稚園。以前は気付いた園児だけが列車に手を振っていた。山形デスティネーションキャンペーン(DC)を機に園全体で取り組んだ。三浦洋介園長は「子どもたちは笑顔の交流ができるのがうれしいようだ。園児の心と行動に残る息の長い活動にしたい」と話す。

 山形DCで推進組織は、観光立県の実現に向け、県民総参加・全産業参加を掲げた。県が企業、団体、個人へ登録を呼び掛けた「おもてなしプラン」にDC最終日の13日までに550件が認定され、参加者は10万人を超えた。大宝幼稚園は県内の幼稚園として第1号の登録となった。

 自動車用精密金型部品製造などの全晴山形工場(新庄市)。大半を占める県外の取引先への観光地紹介や、出張時の周辺温泉の宿の手配などを率先して行ってきた。観光から遠い業種だが「仕事を通して地域が潤うようにしたい」との思いからだ。こうした取り組みを「おもてなしプラン」に登録した。

 同社のように、もともと観光PRに積極的だった企業・団体が登録したケースが多い。一方で各団体・企業などのプランを県のホームページで紹介したことで活動の輪が広がった。社屋前に花を植え、地域の景観を向上させた建設会社、県内の観光地や食を紹介するサイトを独自に運営し、情報発信する印刷会社などと登録が相次いだ。

 中学生が首都圏など修学旅行先で本県をPRする事業も。県の呼び掛けに3校300人超が応じて参加。このほか観光パンフレットの作成などを含め、自主的に情報発信する学校が増えた。「今回のDCによる最大の成果は県民総参加のおもてなしやPR活動が広がったこと」と内藤文徳山形DC推進協議会理事(67)は評価した。

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山形DC期間中に毎週、JR酒田駅に立った東北公益文科大の学生たち。観光客を出迎え、見送り、観光案内を行った=酒田市

 山形デスティネーションキャンペーン(DC)は、JRの駅を拠点に多彩なもてなしが行われた。中でも南陽市の赤湯駅での活動は、他地域から「地元との一体感が抜きんでていた」と評価された。以前からイベントなどを通して駅と地域の連携が行われており、秋葉弘巳駅長(55)が赤湯駅前の出身という要因もあった。取り組みの最大の特長は立ち上がりの早さと危機意識の高さだった。

■駅と地域が連携

 DCの宣伝効果で県内の観光客は増えても、何もしなければ赤湯駅で降りてはもらえない―。駅や市、旅館組合、観光協会などの代表者がこの認識を共有し、DC1年半前の2012年12月に推進チームを設立。農業法人なども加え、DCを生かすために何ができるかを本音で議論した。

 同月から月1回、クリスマスや雛祭りなどの駅イベントを実施。コンサート開催や足湯設置、ワインの振る舞い、農産品販売などでにぎわいを創出した。情報を共有し、できることから実行する。課題が見つかれば解決策を検討する。繰り返すことで連携は強固になった。連日行った観光バスの出迎え、見送りは毎回担当者を決めた。責任感を持って対応するためだ。

 イベントのたびに多くの市民が協力した。「参加者の間にDCは自分たちが取り組む活動との意識が浸透していった。誰にでも必ず役割がある。みんなが主人公になれたことが良かった」。秋葉駅長は振り返る。

 南陽市は7月に豪雨被害に遭った。家屋の浸水は赤湯地区全域に拡大したが、温泉旅館の休業は一部にとどまり、地域を挙げて「南陽は大丈夫」と発信した。「未曽有の水害で市民の団結力が強まった。南陽のおもてなし活動はこれからが本番」。須藤清市市観光協会長(58)はDCを活動のスタートととらえている。

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 酒田市の東北公益文科大の学生は「酒田おもてなし隊」を結成した。参加したのは約20人。酒田駅で山形DC期間の毎週末、観光案内や出迎え、見送りを行った。

 「2~3時間で何か観光したい」「おいしい店はどこ?」。おもてなし隊の案内所には観光客が次々と訪れた。当初は聞かれたことに答えられなかった学生たちは実際に地域を回り、生きた情報を集めた。1年生の佐藤七海さん(18)、三上陽香さん(19)は「たくさんの名所に自分で足を運び、あらためて地域の魅力を知った」「案内後に帰ってきた方に『よかったよ』と言われるのがうれしい」と笑みをこぼした。

■活動これからも

 大隊長を務める同大の中原浩子特任講師(53)は活動を継続したいと考えている。そのためには何が必要か。中原さんは幅広い市民が参加しやすい仕組みづくりを挙げ、「時間がある時にちょっと手伝いたいけど、どこにいけばいいか分からない。そんな人と、もてなしの場面をマッチングできるような組織を整備できれば」と続けた。

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