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挑む、山形創生

第2部「雪」 (3) 道路除雪(下)

2016/2/19 15:16
住民生活に不可欠な道路除雪。以前に比べて採算を取るのは難しく、作業を請け負う業者への負担は増している=米沢市金池5丁目

 道路除雪は、雪国にとってどうしても必要な「仕事」だ。誰かが担わなければ住民は生活に欠かせない最低限のインフラを利用することさえままならない。しかし、山形県の事情を取材すると、誰もが必要とする除雪が地域貢献やボランティアといった視点で支えられている現状が浮かび上がってくる。

 「(利益が上がるのは)ある程度、雪が降ればの話」と米沢市内の建設業者。除雪車の車検代や保険代に加え、人手不足による人件費の増加など年々負担は大きくなっている。特に今年は2月の“稼ぎ時”にもかかわらず、「開店休業状態。商売上がったり」と悲鳴を上げる。

■やめたい

 毎年、同じ季節に同じ量の雪が降るわけでない。加えて、近年は地球温暖化の傾向か、全般に降雪量が減少、採算を取るのは一層難しい。同社が保有する除雪用の特殊車両は1台700万~1千万円。高額な投資だが、除雪以外には使えない。少雪で稼働率が下がる年は維持費がのしかかり「雪の多い山間地以外の業者は除雪をやめたいのが本音」という。

 同じく市街地の除雪を請け負う他の建設会社の担当者も「今季は当然、赤字」と肩を落とす。除雪に割く人員を、太平洋側の建設現場に充てた方が収益は上がる。だが、除雪は市民生活に直結する仕事。「長年関わってきた。使命感で続けている」と続けた。

 山形市の場合、2007年度から重機の種類や台数に応じ前払い金を支払っており、一度も出動しなくとも最低限の維持費は賄えるようになっている。しかしかつて委託業者の8割ほどを占めた建設業者は年々減少。重機の老朽化やオペレーターの高齢化を理由に除雪をやめるケースもある。

 現在の委託業者106社のうち建設業者は半分ほどにすぎない。駐車場の除雪などで重機を保有する中古車販売店や清掃業者など異業種にも声掛けし、ようやく例年並みの企業数を確保している。

■人手不足

 数十年前から市街地除雪を請け負う建設会社の経営者は「準備金がないとやっていけない。3回以上の出動でようやく若干の取り分が出る程度。利潤がないのに、老朽化した重機を更新するような設備投資はできない」とため息をつく。以前は除雪用に2台を保有していた重機の数は今は1台になってしまった。

 山間部の除雪を担う建設会社の社長も「天候に左右される除雪をビジネスと考えたことはない」と話す。産業廃棄物の処理や貨物運送業も手掛け、売上高に占める除雪の割合は多くても2~3%程度。除雪は委託された範囲を担えればいいと考えている。

 長引く不況の中で公共工事がピーク時の半分にまで減少。地方の建設業界は大手との厳しい価格競争にもさらされ、淘汰(とうた)が進んだ。確実性の低い事業を地域貢献として担える体力は限界に近づいてきている。

 少子高齢化、東日本大震災の復興需要や東京五輪に向けた建設ラッシュなど、人材確保の面でも不採算事業を担い続けるのはますます難しくなる。業界からは「このままでは将来の担い手がいなくなる」と危惧する声が上がる。

 地域にとって、どうしても必要な仕事なのに利益が上がらない。人も集まらない。道路除雪は大きな矛盾がひそむ、地方の「仕事」や「雇用」の象徴に映る。持続可能な除雪体制を構築することは医療や介護と同じように地方創生のための根本的な問題といえる。

(「挑む 山形創生」取材班)

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