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挑む、山形創生

第2部「雪」 (7) 新ビジネス

2016/2/23 15:02
1メートルほどの雪を掘り、雪の下野菜を掘り出す長倉直人代表(左)。「もっと栽培面積を拡大したい」と話す=金山町山崎

 厚い雪に田畑が覆われる冬季間は農家にとって農閑期だが、金山町の農業法人エヌシップにとっては冬も書き入れ時だ。雪の下に埋め、うま味を凝縮した「雪の下野菜」を「かまくらやさい」のブランド名で出荷している。

■強くなる甘み

 雪の中は温度や湿度が一定。鮮度が保たれ、みずみずしさが失われない。野菜は低温に耐えようと自衛本能で糖分を増し、甘みが強くなるとされる。積雪量の多い最上地域や置賜地域の伝統的な保存、栽培方法だ。11、12月にいったん収穫した野菜を自然に降る1メートルほどの雪の下に置き、12~4月に掘り出して出荷している。

 長倉直人代表(33)は2009年に仙台市から帰郷した。しばらく家業の農業を手伝っていたが4年前、転機が訪れた。知人が作った雪の下野菜を食べる機会を得たのだ。口に含むと一瞬にして甘みが広がった。雪がこれほど、うま味を引き出すとは思わなかった。

 周辺にビジネスとして取り組む農家はいなかった。ここには雪も野菜もある。手探りという不安はあったが、雪の下という付加価値で野菜は売れるのではないか。12年1月、3人でエヌシップを設立。試験栽培を経て、本格的に取り組んで今季で3シーズン目になる。今季はキャベツ、紫キャベツ、ニンジン計約40トンを県内外のスーパーや産直施設に出荷する予定だ。

 2度の収穫が必要な雪の下野菜は手間が掛かる。その分、価格は通常の2倍以上になる。それでも売れる。雪でうま味が凝縮されるという物語性は消費者、バイヤーの興味を引きつけた。雪が手間以上の経済効果を生んだ。

 春から秋の野菜も含め、経営は順調。行政の補助金なしで利益が出る態勢が整いつつある。従業員数は当初の3人から、9人に増えた。それに伴い、出荷量も増大した。長倉代表はかつて「町民の1%を雇用する会社を目指す」と宣言した。金山町の人口は約6千人だから、1%といえば約60人。「前は冗談半分でしたけど、今は本気で思っています」

■冷熱源に最適

 米沢市の奥座敷、小野川温泉。ここに昨年11月、県内初の温泉熱発電所が開所した。水より沸点の低い代替フロンを温泉熱で加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回す。熱源と低沸点媒体の二つのサイクルで構成することから「2元」を意味する「バイナリー発電」と呼ばれる。

 課題の一つが蒸気を冷やす冷熱源の確保。同温泉では近くを流れる大樽川から水を引いているが、山あいの温泉ほど冷熱源の確保が難しい。そこで目を付けているのが雪だ。同温泉の発電装置は3キロワットの電力を生み出すのに毎分100リットルの水が必要だが、プロジェクトを率いる山形大大学院理工学研究科の松田圭悟准教授は「雪を活用すれば同量で数倍の冷却効果が期待でき、排雪の苦労も軽減できる」と説明する。

 温泉熱発電は、天候に左右されないことから年間稼働率が太陽光発電の約4倍にもなる。既に噴出している温泉を利用すれば、熱源の開発コストも掛からない。発電後の温泉水は温度が約5度下がるが、泉質に変化はなく入浴のほか、消雪や温室栽培など2次利用できるのもメリットだ。

 現在は実用化に向け実証実験中。約10年かけて、発電機の性能や発電量の通年変化、配管の耐久性のほか、2次利用先などを研究する。松田准教授は「身近に温泉と雪がある山形だからこそできるメードイン山形の電気をつくりたい」と意欲的だ。

 雪国にとって「雪」は厄介者ではあるが、大きな特徴でもある。アイデアとやる気、勇気で、その特徴を付加価値に結び付ける取り組みはまさに「地方創生」への挑戦といえる。

(「挑む 山形創生」取材班)

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