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挑む、山形創生

第4部鍵握る中小企業(1) 成長支える製造業

2016/4/30 14:45
ステンレス製のタンク類の製造などを手掛ける東北新光工業。小嶋均社長(左)は50年以上にわたってものづくりの第一線で働いている=山形市・東北新光工業

 「あと5、6年は働きたいね」。東北新光工業(山形市)の小嶋均社長(76)はそう言って笑った。100%受注生産で主にステンレス製のタンク類の製造を手掛ける。従業員は8人。「ほとんど事務室にいない」という小嶋社長は、今も工場で若い職人たちと共に汗を流す。半世紀以上にわたってものづくりの第一線で働き続けている。

■99.9%占める

 本県はものづくり産業の裾野が広い。「東北6県で唯一、2030年代もプラスの経済成長を維持する」(七十七銀行推計)とされたのも付加価値の高い製造業が集積しているから。県内企業の99・9%を占める中小企業が山形の経済を支えている。いわば経営者一人一人、会社一つ一つが山形創生の担い手だ。

 小嶋社長は現場一筋の人生を貫いているが、順風満帆ではなかった。勤めていた会社が倒産し、起業したのは1985(昭和60)年。毎日のように夜遅くまで働き、98年には現在地に新社屋と工場を整備した。注文に波はあるが、リピーターを獲得し、安定的な売り上げを確保している。

 営業マンは置いていない。小嶋社長の持論は「製品が営業マン」だ。品質重視の姿勢を貫く。そのためには自らが率先して働かないといけないと考えている。誰よりも早く出勤し、誰よりも遅く帰宅する。こんな生活をずっと続けてきた。「ものづくりが好きだから苦にはならない」とほほ笑む。

 本県の製造業にはこうした熱意を持ち、事業に心身を傾ける経営者が多い。しかし、経済や社会構造の変化に直面する中小企業はある時、設備投資の決断を迫られる。経営基盤の小さな企業体にとって、その決断は果てしなく重い。

■生き残り懸け

 「行政や金融機関の支援がなければどうなっていたか…」。印刷機関連や製パン機の部品加工を手掛ける山佐工業(山形市)の佐藤久子社長(58)は2008年のリーマン・ショック後の厳しい時代を振り返る。頭に浮かぶのは真新しい複合加工機。約2500万円。生き残りを懸けた投資だった。

 それまでは高度成長期の波に乗るなど業績は安定していた。しかし、リーマン・ショック後は大口の受注が激減。現場の社員が慣れない営業をしたが、門前払いにもあった。昔ながらの古い旋盤とフライス盤では、限界が見えていた。

 11年ごろに「このままではいけない」(佐藤社長)と設備投資を決断。約2年間で中古を含めて3台のマシンを導入した。併せて県企業振興公社(山形市)の紹介で新規顧客を獲得。さらに同公社の紹介で愛知県の印刷機の周辺機器メーカーと取引が始まった。そして昨年、金融機関のバックアップを受け複合加工機を導入。このおかげで今はこの愛知県のメーカーから「心臓部の部品」の試作品を請け負うまでになった。「中小企業にとって各種機関のサポートは本当に助かる」という。

 設備投資は企業の成長に欠かせない。だが、人口減少、高齢社会といった今後の社会構造の変化に対応するために、人材の確保も大きな課題となる。中でもこの数年クローズアップされているのは、人材としての経営者の育成、そして事業承継の難しさだ。

    ◇  ◇

 中小企業の振興は、地方創生の鍵を握っている。国は「地方の中核となる中堅・中小企業への支援パッケージ」などの施策を講じているが、浸透しているとは言い難い。第4部では本県の中小企業を巡る課題、そして可能性に注目する。

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