挑む、山形創生

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挑む、山形創生

第5部大学生の力(3) 移り住んで思うこと(上)

2016/6/3 11:11
豊かな自然に囲まれた本県。大学生たちはその学習環境を高く評価している=山形市

 県外から県内の大学に来た学生たちは、山形をどう思っているのか。暮らしや学習環境などについて、2回にわたり学生たちの声を紹介する。

 山形大大学院理工学研究科博士課程2年の藤田恭平さん(26)=福島県いわき市出身=は山形の印象を「程よく都会で程よく田舎。学生の本分である学業に励むならもってこいの場所」と言い切る。

■支えられて

 キャンパスのある米沢市には学部3年次に移り住んで以来、5年間生活している。専攻はバイオ工学。思い通りに研究が進まなかったり、期待する成果が表れなかったりした際、残雪を抱いた飯豊連峰が見えると「疲れや悩みが吹き飛ぶ」という。「自分のやりたいことをやるのに、場所は関係ない」と藤田さん。逆に、やりたい研究に専念するため「余計な誘惑が少なく、治安も良く、自然豊かな景色が望めるのは山形の良さ」と強調する。

 学生と住民との距離もどこか近い。行きつけの食堂を1人で切り盛りするおばさんは、藤田さんいわく「第2の母」。実験ずくめで乱れがちな食生活を改善しようと、栄養バランスを補う小鉢をいつもサービスしてくれるという。藤田さんは「地域に支えられて、今の研究や生活があると実感する」と話している。

■新鮮な景色

 鶴岡市の慶応大先端生命科学研究所で学ぶ大学院生吉川実亜さん(23)は2013年夏、初めて庄内平野の光景を目にした時の印象をはっきりと覚えている。「一面田んぼ。これってテレビで見た景色と一緒だ」

 相模原市出身。同大環境情報学部に入学し、2年次にバイオテクノロジーの基礎を学ぶため鶴岡へ。見慣れたビル群はない。のどかな田園風景が新鮮に映った。3年次に履修科目を受ける必要性から半年ほど鶴岡を離れたが、昨春から再び鶴岡で暮らす。「研究に没頭する上で(鶴岡暮らしは)全く問題がない。ストレスがたまったら海を見に行く」と声を弾ませる。

 都会を離れ、地方で暮らす上で心配がなかったわけではない。好きな洋服が手に入らないといったショッピングに関する悩みもあったが、インターネット通販のおかげでそう気にならなくなったという。

■ゆったり感

 吉川さんは化粧品の開発に興味があり、一人一人違う皮膚に関する微生物をテーマに研究を進めている。「4年で卒業して就職するのが一番だと思っていた。だけど、ここに来て考えが変わった」という。「好きな研究にもっとのめり込みたい」。迷わず大学院に進んだ。都会のスピードとは違った、ゆったりと流れる時間に身を置く心地よさ。若き研究者の表情から充実感が伝わってきた。

 創作活動に取り組む学生にとっても、本県の豊かな自然、地域とのつながりの濃密さが好影響を及ぼすケースはあるようだ。山形市の東北芸術工科大美術学科3年浜野元気さん(20)は油絵を専攻。最近、自分の作風が以前よりも柔軟性を増してきたと感じている。

 千葉県匝瑳(そうさ)市の出身。入学後、小学生を対象にものづくりのワークショップなどを開くサークルに加入した。活動を通じて湯殿山や鳥海山といった山岳資源に触れたり、田植えをしたりと、さまざまなことを体験。「大学から見える山々の大きさに圧倒されたし、景観の美しさにもパワーをもらっている。山形は自然と人が共存していると思う」と魅力を語る。

 人との関わりも大きな刺激だ。「子どもたちがものづくりをする姿を見ると、もっと自由でいいんだと感じられる」。以前は静物画や人物画もできるだけモデルを忠実に表現しようとしていたが、入学後は色彩豊かな作品を描いたり、花や木片など自然の物を画材として取り入れたりするようになった。

 「月山がふとした瞬間にすごくきれいに見えたり、冬の朝方に降る雪の美しさに感動したり。日常の変化に敏感になった気がする」。創作に没頭できるこの環境が気に入っている。

(「挑む山形創生」取材班)

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