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第8部海に生きる(2) 漁村支える女性たち

2016/9/27 09:59
庄内浜で水揚げされた海産物が人気を集めている鮮魚直売所「元気な浜店」=遊佐町・道の駅鳥海

 日本海の荒波の中、果敢に漁に挑む男たちが取った新鮮な魚介類の一部は、庄内浜の女性たちの手に渡される。県内外に知られるようになってきた豊かな海の幸は彼女らが支えているともいえる。

■旬の魚介提供

 魚が焼き上がる香ばしい匂いに引き付けられ、長い行列を成す人々。庄内浜で水揚げされたアジやタイに加え、大ぶりなギンガレイの焼き物が飛ぶように売れていく。遊佐町の国道7号沿いにある道の駅鳥海「ふらっと」内の鮮魚直売所「元気な浜店」を切り盛りするのは、県漁業協同組合女性部吹浦支部の面々だ。

 道の駅鳥海がオープンした1997年に、元気な浜店も営業を開始。現在は吹浦支部のメンバー10人ほどが、鮮魚の販売や魚介類を使った総菜の調理などに当たる。季節の多彩な海産物を楽しめることが高い人気の要因で、これからの季節はハタハタやサケ、冬は寒ダラが目玉になる。

 年間を通じて最も客が集まるのは、6~8月のイワガキの時期。庄内のイワガキは、鶴岡市のイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」のオーナーシェフ奥田政行さん(46)が「日本一」と評価する夏の名物だ。

 吹浦支部長で、元気な浜店の店長を務める本多寿賀子さん(74)は「イワガキの時期は建物の外まで行列ができるほどの忙しさだけど、お客さんに『おいしかった』と言われたり、みんなとわいわい仕事をしたりするのが生きがいになっている」とほほ笑む。自分たちの商売を成り立たせてくれる海の恵みには、感謝の念が募る。

小ダイを粉末にし「小鯛だし」を作る「ゆらまちっく海鮮レディース」。中央は代表の和田光子さん=鶴岡市・海の駅ゆら

 庄内の海産物をアピールする格好の場になっている元気な浜店。店に立つ支部員の高齢化や後継者不足といった課題も抱えるが、庄内弁が飛び交う店内には明るい雰囲気が満ちる。素材の良さもさることながら、接客する支部員の飾らない笑顔も、店に欠かせない魅力の一つとなっている。

■快活に冗舌に

 家を守る女性たちの表情は実に豊かだ。鶴岡市由良の「海の駅ゆら」2階。日々のうっぷんは笑いに変わる。「由良の漁師なんて殿様みたいだけど、奥さんが支えねど絶対できね。魚取って、そっから先は全部奥さんの仕事だから」。爆笑が起こった。「んだの」。快活な女性たちは手作業が進むにつれ冗舌になる。

 彼女らは「ゆらまちっく海鮮レディース」のメンバー。50~60代の7人が所属。黄色のエプロンを着て月に1、2度集まって奮闘している。2011年に発足したレディースはこれまで、売り物にならない小ダイを粉末にした「小鯛だし」、同じく商品価値のないテナガダコを使った「おつまみ干しだこ」、小鯛だしを麺に練り込んだ「八乙女うどん」を商品化した。市内の庄内観光物産館や道の駅などで販売している。

 中でも人気なのは小鯛だし。1袋50グラム入り650円だが「しょうゆと熱湯を加えれば吸い物になる」「いいだしが取れる」と好評。多い時で1カ月に500袋を売り上げる。漁師が丸ごと煮立ててだしに使っていた小ダイを、加工食品にできないかと試行錯誤の末に生まれたヒット商品だ。

 レディース代表の和田光子さん(62)=由良2丁目=は「世間的な魚離れを感じていて、本当の魚の味を伝えたいと思っていた」と語る。レディースの年間の売り上げは約120万円。1人当たりの収入は月1万円と少ないが、家計の足しにはなる。

 由良地区は約340世帯約千人が暮らす。漁師離れや、スーパーで簡単に魚が手に入る時代になり、かつて漁村で活躍したアバ(リヤカーに鮮魚を積んだ女性の行商)はほぼいなくなった。昭和30~40年代に70軒ほどあった民宿も現在8軒になっているという。

 和田さんは「由良のものを使って雇用の場をつくれたら」と汗を拭う。「魚のおいしさ伝えていかねばの」と明るくたくましく、漁村の元気を支えている。

(「挑む 山形創生」取材班)

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