過去最多の300人―。昨年6月からの1年間に県内で新規参入した就農者数だ。高齢化と担い手不足で5年後の姿が見通せないとの生産者の声がある一方で、この数字は希望の光。次代を担う新規就農者がいかに定着できるかは、本県農業の将来を左右する。
地元でも期待
県内最大規模の農事組合法人・村木沢あじさい営農組合(山形市)では現在、7人の若い職員が「農メンズ」としてコメや大豆などの生産に当たっている。20~40代で、地域農業の将来を担う人材として地元から高い期待が寄せられている。
農メンズに今春加わった遠藤純弘(よしひろ)さん(40)=川西町下平柳=と、和田剛さん(32)=山形市北山形1丁目=は、他業種からの新入りだ。父が川西町で農家を営む遠藤さんは静岡県で運送業に就いていたが、飯豊町出身の妻の出産などを機に2年前にUターン。和田さんは農業とは無縁だったが、以前から関心があり、10年間ほどサービス業で働いた後、転身した。
能力高めたい
ここまで来た道のりは異なるが、2人が同組合の門をたたいた思いは同じ。ここが6次産業化やグリーンツーリズムにも積極的だったからだ。ここで経験を積み、自分の能力を高めたいと考えている。遠藤さんは新人ながら自ら志願し、オカヒジキの生産から販売までに挑戦。好調な売れ行きに充実感を得たが、手塩にかけて作った野菜の価格は1袋100~150円。「農業は本当に手間暇がかかる。経費削減を徹底しないと稼ぐのは難しい」と語る。和田さんは「エダマメは畑によって同じ品種でも収量が違うことに驚いた」。身をもって学んだことだ。
同組合の総務担当の佐藤清一理事(68)は「競う相手がいて活力が生まれ、各自のレベルアップ、農業のイメージアップにつながる。泥まみれになるだけが農業じゃない。夢を描けるようでなくちゃ」と若い世代の奮闘ぶりを温かく見守る。
一方、2010年度から5年間の新規就農者1184人のうち、11%の132人が志半ばで離農している。「農業は一人では難しくても、それぞれの知恵を出し合えば、いろんな可能性が広がる」と遠藤さん。定着する就農者を増やすためには、若手農業者同士の結束が鍵を握ると感じている。
東北で唯一、セロリの団地化が進む山形市。特産の「山形セルリー」の栽培ハウスが並び、ここにも新規就農を果たした転職者がいる。今年9月に2年間の研修を終えたばかりの一條克之さん(44)=同市小荷駄町。秋の収穫期を迎え、セロリの匂いが漂う中、慣れた手つきで収穫する一條さんは「これからが本番」と気を引き締める。
誇れるものを
山形市出身で、関西の大学を卒業後、東京や山形で会社員や自営業をしていた。「自分の手で誇りを持てるものを作りたい」。42歳で農業の道に転身することを決めた。
当初はトマト栽培に関心があったが、農業体験の際にJA山形市がブランド化を進める山形セルリーと出合い、そのおいしさや将来性の高さに着目。来年から本格的に取り組むため、先輩農家の下で修行中だ。
水田だった場所を畑にするため、土作りから携わり、ひたすら堆肥をまく毎日。「どれだけ自分の汗が染み込んでいるか分からない」と振り返る。来年1月からは独り立ちして同JAからハウス9棟を借り受ける。「農家は作物が全滅してしまえば生活が成り立たなくなる。セロリは栽培が難しく、不安が尽きることはない。それでも収穫の楽しみがあり、一生続けていきたい」と意気込む。「3、4年をめどに農業経営の基盤を固める」と将来像を描き、「自信を持って山形セルリーを全国に発信する」。そう語る横顔に、農家の誇りをにじませた。(「挑む 山形創生」取材班)
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