「日本は環太平洋地震帯に位置しており地盤がもめている場所。だから原発の建設は絶対駄目だと言い続けてきた」。元地震予知連絡会長の茂木清夫東大名誉教授（81）＝河北町出身＝は語る。福島第1原発の事故を受け、菅直人首相は中部電力に浜岡原発の運転停止を要請、5月14日、同原発にある全ての原子炉が止まった。「菅さんの判断は良かったと思うが、国内にはまだ数多くの原発があり危険性は消え去っていない」

　1969（昭和44）年10月、茂木氏は地震研の月例談話会で「東海地方に地殻ひずみが蓄積しており、マグニチュード（Ｍ）8クラスの大地震発生が懸念される」と発表した。この東海地震説は新聞、テレビ、週刊誌で取り上げられ大きな反響を呼んだが「中部電力はわずか7カ月後、浜岡原発の設置を申請。原子力安全委員会も7カ月で設置を許可した。大地震の危険性を知りながら、なぜ急ぐように建設したのか」。いまも憤りを感じる。

　日本原子力産業協会によると、世界で最も原発が多いのはアメリカで104基、次がフランスの58基、日本は54基で世界第3位の原発大国だ。茂木氏は、この中で最も危険なのは日本だと指摘する。「アメリカは原発の多くが東部・中部に集中し、地震が起こる太平洋側では少ない。しかも断層のない所を注意深く選んでいる。一方、フランスは地盤が極めて安定している」。それに対して、日本は「地球上で最も活発な環太平洋地震帯にあり、原発を建設するのに適当な場所を探すことが一番難しい」。

　原子力発電はそもそも危険な装置というのが茂木氏の持論だ。1979年のスリーマイルアイランド事故、86年のチェルノブイリ事故はそれを示している。「二つの事故は地盤と関係なく起きた。地震だけでも怖いのに、技術として危なっかしい。日本のように地震が起こりやすい場所に建設するのは間違っている」

　茂木氏は世界の大地震と原発の分布図を作成し、著書「とらわれずに考えよう－地震・火山・岩石破壊」で紹介している。「これを見て分かるように、両方重なっているのが日本。地震は巨大な地球の動きだから止めることはできない。じゃあどうするか。答えは明らかだ」

　イタリアでは12、13日、原発再開の是非を問う国民投票が行われ、反原発票は9割を超えた。ドイツでは、物理学者でもあるメルケル首相がエネルギー政策を転換し「フクシマから学んだ」と脱原発を決定した。

　「日本は世界で唯一の被爆国。戦争で痛めつけられ、福島の事故はなお収束の見通しが立たない。こんなに原子力に苦しめられているのは世界で日本人だけだ」。厳しい表情で茂木氏は語る。「国民はこれまであまりにも無関心だった。日本こそ太陽光や風、海の水など自然エネルギーの推進に大車輪で取り組むべきだ。やる気になればできる国なのだから」