昨年11月、衝撃的な数字が明らかになった。東京大地震研究所の研究チームが全国の主要活断層帯周辺を調査した結果、東日本大震災後、11カ所で地震発生率が10倍以上アップ、長井盆地西縁断層帯周辺は約33倍に膨れ上がったという内容だった。本県で確認されている四つの主要断層帯のうち、長井は今後30年以内の発生確率が「0.02%以下」と最も低く、比較的安心な場所のはずだった。震災後、置賜周辺は一転して危険地帯へと変わってしまったのだろうか。東京都文京区にある東大地震研を訪ねた。
周辺部を含め
「33倍という数字はあくまで断層帯周辺の地震発生率の変化。断層帯そのものの発生確率が上がったわけではない」。特任研究員の石辺岳男は説明する。石辺らは全国の主要断層帯から5キロ以内で発生したマグニチュード(M)1以上の地震を抽出し、「3・11」前の1年間と、それ以後8カ月間の変化を調査した。その結果、北伊豆断層帯(神奈川・静岡)が最高の70倍、長町-利府線断層帯(宮城)は57倍となるなど11カ所で発生率が大幅に上昇。本県では唯一「長井」がそのグループに入った。
本県と福島県境付近では東日本大震災後、群発地震が起きている。山形地方気象台によれば、昨年3月18日から地震活動が活発化。1年以上過ぎた今年5月も「引き続きまとまった地震活動がみられる」と発表した。群発地震の発生エリアは、一部が長井盆地西縁断層帯から5キロ以内にあり、この影響を受けたため、33倍という数値が導き出された。
石辺はさらに興味深い言葉を口にした。「この周辺では不可思議な現象が起きている」。何が「不可思議」なのだろうか。
東北地方は、太平洋プレートの沈み込みによる地殻変動で東西圧縮の影響を受けるため、発生する地震の大部分は逆断層型(地盤が押されることによって一方がずり上がる)という特徴がある。しかし、M9という超巨大地震の発生で、長年蓄積されたひずみが解消され、東西圧縮の力は減少。そこで発生が予想されるのは正断層型だ。このタイプは地盤が引っ張られて一方がずり落ちることによって起きる地震だ。
石辺によれば、逆断層型の長井盆地西縁断層帯は震災後、東西圧縮の力が解放されたため理論上は地震が起きにくくなるはずだった。実際、群発地震の南に位置する会津盆地東縁断層帯は震災前にM6近い地震が発生し余震が続いていたが、3・11を境に静穏化した。ところが、県境付近では群発地震が発生、しかも、そのタイプは東西圧縮の場で起きる従来通りの逆断層型。「理論」と「実際」の乖離(かいり)が、石辺の言う「不可思議さ」というわけだ。
滑りやすく?
「大震災によって地下が刺激されて水が上がり、断層面が滑りやすくなった可能性があるが、はっきりしたことはまだ分からない」と石辺は話す。「この不思議な現象のメカニズムを解明するため、今後も研究を進めていきたい」。地震科学の最前線では、理論と実際の溝を埋める地道な努力が続けられている。
「山形の活断層」第3部では、長井盆地西縁断層帯とその周辺を紹介する。=敬称略
【ズーム】長井盆地西縁断層帯 朝日町から長井市をへて米沢市に至る約51キロの断層帯。走向はおおむね南北で、最新の活動は約2400年前以後、平均活動間隔は5000~6300年程度と推定されている。全体が動いた場合、マグニチュード(M)7.7程度の地震が発生し、2.5メートルほどの段差やたわみが生じる可能性がある。
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