鮭川断層は不思議な断層だ。いや「だった」というべきか。新庄盆地断層帯西部の中で最も長く、基本的に断層帯西部の特徴である「西側隆起」の逆断層とされるが、断層帯東部の特徴である「東側隆起」という、まったく逆の変位地形も確認されている。
不思議な現象
「西の顔」だと思っていたら「東の顔」だったというわけだが、この不思議な現象は「Flexural slip(層面すべり)断層」という概念で説明できることが、2003年の専門誌「活断層研究」に発表された論文によって示された。
論文を執筆した原子力安全基盤機構主任研究員の松浦旅人は次のように語る。「層面すべり断層は、地層の境界面を利用してせん断を起こす断層で、褶曲(しゅうきょく)に伴って形成される。鮭川断層では複数の箇所で、こうした現象が確認できる」。堆積物が厚くたまっている褶曲地帯でよくある現象で、新潟や秋田県などでみられるという。新庄盆地はかつて海だった時代の地層が厚い上、褶曲が発達しており、層面すべりを起こしやすい。松浦は論文の中で、政府の地震調査研究推進本部が示した「鮭川断層」のうち、東隆起が確認できる南北の部分について、それぞれ地名から「升形断層」「日下断層」と名づけた。
松浦によれば、「層面すべり」自体は地震を引き起こす断層ではないという。それでは安心なのかというと正反対。「層面すべり断層があるということは、地表近くが強い圧縮運動を受けていることの表れ。大地震の原因となる張本人、つまりメーンの断層が地下にあるのは間違いない」。松浦は続ける。「子グマの近くには必ず親グマがいるでしょう? 同じように、層面すべり断層の近くには、大地震を引き起こす親玉が確実にいるということ。子グマに対処しても駄目。親グマ=親玉を理解しないと地震動は分からない」
新庄市本合海で確認されたFlexural slip断層の露頭。地層の境界面を利用してすべっている様子が分かる(松浦旅人氏提供)
危険度の判断
松浦によると、「親グマ」は日下、升形両断層から西側の地下に潜んでいるという。「活断層の危険度は狭い範囲だけを見て判断してはいけない。仮に鮭川断層が動いた場合、新庄周辺に住む人は間違っても庄内方面に逃げては駄目だ」と強調する。
その理由はこうだ。鮭川断層の「親玉」は、地表で示されている鮭川断層ラインの西側にある。親玉(震源)に近いほど地震の揺れは大きくなる。震源からの距離が最も近いのは、震源の真上。つまり、西の方に逃げれば…。大きな揺れが直撃しており、地震動による地滑り、道路の寸断などが危惧される。
活断層による内陸直下型地震で、断層線の直上に建物があった場合、地面が直接ずれ動き、大きな被害を受けることが懸念される。それゆえ、国土地理院の都市圏活断層図や地震調査研究推進本部の長期評価などで示される断層のラインは重要な意味を持つ。しかし、それだけを注視していれば事足りるというわけではない。地図上のラインだけを警戒していては、地震の本質、正体を見誤ることになる。=敬称略
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