第2部・病院が直面する課題(8) 人手不足その5~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第2部・病院が直面する課題(8) 人手不足その5

2021/12/7 09:17
患者の話に耳を傾ける渋谷真大医師。月に2、3回派遣されている=小国町立病院

 置賜地域の中核病院・公立置賜総合病院(川西町)は、置賜4市町の医療施設を再編し2000年に誕生した。69人だった医師は少しずつ増え、現在は研修医を含め126人(今年4月時点)を擁する。10年ほど前から域内の病院への医師派遣を始め、本年度上半期は、7病院・診療所に24人の医師を派遣した。医師不足の中、補完しきれているわけではない。それでも同病院に医師が集まることで、周辺病院も一定数の医師を確保でき、若手は経験を積める関係ができつつある。

 再編効果は徐々に現れた。高度医療を担う置賜総合病院と回復期を担う長井、南陽のサテライト病院―。医療の集約と機能分担によって十分な症例、最新の医療機器、そして近年は40人を超える専門科の指導医を確保できるようになった。

 高度で専門的な医療から地域医療まで多くを学べる環境は、大学などから初期研修や専門医研修の教育機関として評価され、若い医師が集まるように。それにより、また患者が集まるようになった。ここ10年は安定して100人前後で推移、研修医を加えると100人を大きく超えている。林雅弘院長は患者や医療人材を引きつけるこの状況を「マグネットホスピタル」と表現。「周辺の病院にも医師を派遣できるようになった」と振り返る。

 特に増えているのが臨床研修医だ。2年前には敷地内に研修医用住宅ができるなど生活環境も充実した。本年度はほぼ病院の定員いっぱいに研修医が集まり、04年に新制度が始まって以降、最多の22人(4月時点)が勤務する。若い医師が集まることでベテランも刺激を受け、病院に活気が出る。そんな好循環も生まれている。

 11月30日、小国町立病院で渋谷真大(まさひろ)医師(32)が足腰の痛みなどを訴える男性の話に耳を傾け、足の動きを確かめていた。この日は外来で40人余りを診察。その8割が高齢者だ。

 渋谷医師は山形大医学部付属病院の専門医研修プログラムの中で今年4月、公立置賜総合病院に赴任。年明けに整形外科の専門医認定試験を控える。火曜に隔週で置賜総合病院から派遣され、小国病院で診察に当たる。小国での診療は大きな病院とは勝手が違う。基本的には自分1人で診断し、治療方針を決めなければならない。医療機器も限られる。その中で正確な診断ができるよう、患者の話に耳を傾け、身体所見をよりしっかりとるなど努力を重ねる。若手医師にとって貴重な経験だ。

 渋谷医師は山形市出身。過疎地の医師不足は認識していたが自身が働く具体的なイメージまではなかった。派遣を打診され、「役に立てるならぜひ」と応じた。「手術を含め整形外科医として成長すると同時に、地域医療にも携わっていきたい」と将来を描く。

 林雅弘院長は小国への医師派遣を始めた当初、自身も病院を訪ね、院長らと話しながら環境を確認した。「一人一人をきちんと見て研修体制をとるのが大事」とし、「若い医師が勉強したいと思える環境をつくり、山形に残る医師を増やしたい。研修病院はみな、その点を意識していると思う」と強調した。

 山形大や東北大などの専門研修連携病院としての立ち位置に加え、置賜総合病院には独自に実施する専門研修プログラムがある。診療科の枠を超え幅広い視野で診断する総合診療医。高齢化、多死時代を迎える今後の地域医療を考える上で注目の分野だ。同病院には県内で唯一、総合診療の専攻医(4人)がいる。救急専門医や精神科を専門としてきた医師、緩和ケアを志す医師など経歴は多様だが、「専門だけでなく、いろんなことをできる医師になりたい」との志は共通だ。

 指導医で診療部長の高橋潤医師(55)は、総合診療医は、特に医師不足に悩む地域の病院で強みを増すと感じている。医療の集約が避けられない中、丁寧に患者の話に耳を傾け、身体的な問題だけでなく、精神的、社会的背景を含めて継続的に対応する総合診療医は、高度で専門的な治療を施す病院との連携でも力を発揮するはずだ。高橋医師は「臓器のスペシャリストは当然必要だが、患者の全体を診る医師も一定数いて、互いにリスペクトしながら連携していくことが地域のためにも良いことでは」と指摘する。

◆臨床研修医 免許取得後の新人医師に病院(県内は9カ所)での研修を義務付ける制度。研修先は学生が希望を出し、病院との面談などの結果、決まる。臨床研修医の獲得は医師確保の面でも重要だが、全国的に都市部に集中する傾向があり、医師の地域偏在を加速させているとの指摘もある。

◆専門医制度 臨床研修後、多くの医師は19の基本診療科から選択し、研修プログラムを経て専門医認定を受ける。研修期間は診療科で異なり3年程度。県内では大半のプログラムを山形大医学部付属病院が基幹病院として用意、県内医療機関が連携病院となり、研修を受け入れている。

=第2部おわり

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