第3部・連携実施の先駆け(6) ヘルスケアネット誕生前夜(上)~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第3部・連携実施の先駆け(6) ヘルスケアネット誕生前夜(上)

2022/2/5 15:35
統合前の県立日本海病院(前)と市立酒田病院(後)。約2キロしか離れておらず、診療科・機能が重複していた=2006年、酒田市

 競合する医師同士が連携するのは、なかなか難しいのが実情だ。地域医療連携推進法人は全国に30あるが、地区医師会に入ってもらうことすら難しいと言われる。「日本海ヘルスケアネット」(酒田市、2018年認定)は全国で初めて医師会、歯科医師会、薬剤師会がそろい、精神病院、介護施設も参加している。

 どのように地域の主要関連施設を網羅した連合体を組織できたのか。背景の一つに三十数年前から酒田地区の医師たちが病院や診療所の垣根を越えて重ねてきた交流がある。

 「始まりは飲み会だったんですよ」。市立酒田病院内科医長から内科胃腸科医院を開業した元酒田地区医師会長・本間清和氏(74)は笑いながら振り返る。1989年、鶴岡の開業医たちの飲み会組織を手本に本間氏が発起人となって酒田の若手開業医たちの「日和美(ひよりみ)会」をつくった。市立病院外科科長だった栗谷義樹氏(現・日本海ヘルスケアネット代表理事)も途中から加わった。

 「病院に紹介した患者が、その後開業医のもとに戻ってこない」。ある日の会合で出た話題をきっかけに鶴岡、酒田両地区の病院、診療所の医師が症例発表する庄内医師集談会で91年、「病診(病院と診療所)連携」をテーマにシンポジウムを開いた。病院と診療所との間に見えない壁があった時代。病診連携は先進的な視点だった。

 93年に県立日本海病院が酒田市内に開設されると、日和美会には県立病院、市立病院の多くの勤務医が加わった。同年、今度は酒田地区単独で病診連携座談会を開き、94年の「病診連携の会」誕生につながった。

 夜の宴席も続け、専門分野や趣味を語り合い、会員同士、相互理解を深め、地域医療の在り方や課題についての共通認識も醸成された。耕してきた土壌が後の連携の芽を大きく育てることになる。

 2000年代に入ると、1969(昭和44)年開院の市立酒田病院の老朽化と、93年開設の県立日本海病院の累積赤字が避けられない課題になっていた。両病院の距離はわずか2キロ。診療科が競合し、市立病院も県立病院開業後は赤字に転落していた。

 98年から市立病院の院長に就いていたのが、後に両病院が統合してできる現日本海総合病院の運営組織「県・酒田市病院機構」で理事長を務めることになる栗谷義樹氏(75)。院長就任当初は「どうしたって勝てない県立と勝負し、雇用を守らなければ」との思いだったと振り返る。

 市立病院は介護機能を担うしかないと考えたこともあった。それでは必要とされる医師や看護師の数は少なくなり、職員の8割をカットしなければならない。急性期の一般診療で生き残るため、患者増加策、経営改善に着手した。

 手だての一つが、医師の業務改善と効率化。診療報酬を生む医師が診療に集中できるよう、カルテ記入代行など一部業務を他業種に移行した。現場からも改善案を募り、名案は即導入、コスト削減も徹底した。取り組みを進めるうちに風通しのいい、仕事がしやすい職場になり、医師や看護師が集まるようになった。患者に対する接遇の改善にも乗り出した。丁寧な説明と対応で信頼関係を築くと、「リピーター」も増えた。

 医師の一部業務を他業種に移行する取り組みはタスク・シフトと呼ばれ、今では患者の接遇改善と同じく一般的になったが、当時は先行した取り組みだった。地元開業医との信頼関係で市立病院への紹介件数も伸び、栗谷氏の院長着任後4年目に黒字に転換した。

 市立病院の内部留保資金は、県立病院と統合する直前には50億円弱にまで増えていた。同時期の県立病院の累積赤字は100億円超。「“持参金”を持って統合できた」と栗谷氏は語る。市立病院での経営改善の精神と手法が現在の日本海総合病院での改革、黒字化の基礎になっている。

 一方、病院の老朽化は確実に進んでいた。05年に市議会特別委員会が「30床減で移転改築」の方向性を示したが、地区医師会などから「県立病院との競合が続き、共倒れになる」と反発を受け、協議は難航。栗谷氏も国が病院の再編・機能分化の必要性を重視し始める中、将来の地域医療を守る道として統合の思いに至っていた。現場を熟知する両病院の医師の多くも同じだった。

 市立病院は全日本自治体病院協議会長や税理士法人の所長など外部有識者を迎え、改築委員会を設立。「統合が適当」との提言を得た。だが、統合には設置者の県や市に加え、労働組合、議会への対応も求められる。具体的な議論に入るのが困難なほどの難関が待ち受けていた。

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