第3部・連携実施の先駆け(7) ヘルスケアネット誕生前夜(中)~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第3部・連携実施の先駆け(7) ヘルスケアネット誕生前夜(中)

2022/2/6 12:17

 酒田市の市立酒田病院と県立日本海病院の統合協議は難航を極める。専門医が集まることで、効率的な診療や運営が可能になる。市立病院の老朽化、県立病院の累積赤字という双方が抱える問題も解消され、庄内になかった3次救急医療機関ができるメリットもあった。だが、職員の雇用問題が立ちはだかり、双方の運営者である県と市が合意に至るまでも曲折があった。

 2005年10月、市立病院の外部委員会が「統合が適当」としたものの、県の反応は芳しくなかった。一方で県立病院は多額の損失を出し続けていた。県の外部監査で、ようやく「再編統合」の報告が出され、方向性が一致するまで1年近くを要した。直前に国会の厚生労働委員会で病院再編の必要性が議論されていた。関係者の一人は「ここで風向きが変わった」と振り返る。水面下では行政担当者、政治家、労働組合幹部らの説得に関係者が全力を尽くしていた。06年9月、ついに当時の知事と市長による再編統合の合意に至った。

 その間、地域の開業医らも市民の不安払拭(ふっしょく)に走る。酒田地区医師会は市民向けの公開シンポジウムを開催。両病院の院長、県と市で組織する協議会、労働組合の代表らが登壇し、なぜ統合するのか、不便にならないか、といった市民の疑問に答えた。

 当時同医師会長で、司会を務めた本間清和氏は「特に救命救急のレベルが上がる点が市民の理解を得る要因になった」と分析する。一方、四つの労働組合が統合計画中止の要望書を提出するなど、反対の動きも依然としてあった。

 県、市の議会議決を経て08年4月、地方独立行政法人県・酒田市病院機構が運営する日本海総合病院が開業した。統合合意からは、わずか1年半だった。理事長には市立病院の院長だった栗谷義樹氏が就任した。

 県立日本海病院と市立酒田病院の統合作業で難しかったのは、重複する診療科の再編だった。両病院と、医師を派遣する山形大、東北大との4者で協議。県立病院を増築して急性期中核病院「日本海総合病院」として救命救急センターを設置する一方、市立病院は療養・回復期を担う酒田医療センター(現・酒田リハビリテーション病院)として病床を削減、全面改修することになった。病床は一般が282床減り、療養が114床増え、差し引きで168床削減した。

 雇用問題では、各地から赴任していた県立病院の看護師が新法人の職員となることに反対があったが、統合後3年は県からの派遣職員とし、その間に判断できる仕組みを整えた。当初は9割が県職員のままを希望していたが、最終的には7割が新法人に移行した。

 統合後も、市立病院時代を手本に現場の意見を重視した職場改革が進められた。医師や看護師が本来の業務に集中できるよう、事務作業を補助する医療クラークや看護助手を大量に採用した。これも定数条例に縛られる公立病院ではできない改革だった。利益が出れば、非正規を含め全職員に業績手当を支給した。24時間の保育所を開設し、病児・病後児保育も手掛けた。

 統合による最も大きな成果について、佐藤俊男県・酒田市病院機構参事(74)は「理事会で決定でき、事業遂行速度が格段に上がったこと」と指摘する。県や市との協議は必要に応じて行うが、議会出席は不要になり、必要な時に採用や設備投資、事業改革を即決、実施できるようになった。手応えを感じた現場の改革速度はさらに上がっていった。

 患者、手術件数は大幅に増え、2019年度の入院単価は統合前の1.8倍に。利率が高い起債の繰り上げ償還、施設管理の委託契約見直しにも取り組んだ。二つの病院への重複投資がなくなり、決算は大幅に改善した。

 最新の医療設備が充実し、症例経験を積むことができ、働きやすい職場になると、比例するように若い医師が増え、看護師も確保しやすくなったという。500人余りの新たな雇用を生み、21年度の職員数は1863人。医師だけでも統合前(両方の病院合計)の1.4倍に上る。

 決算は新法人初年度から毎年黒字。リハビリテーション病院はほぼ毎年赤字で、18年度から市が離島・飛島や周辺部に開設していた5診療所と旧八幡病院が統合されたが、日本海総合病院が支え、法人全体の黒字は揺るがない。

 統合の経験は地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」の連携で大いに生きることになる。同機構の栗谷義樹理事長(75)は「統合時にやった機能の集約、分化を地域全体でやるだけ」と言い切る。

 両病院統合時に直面し、乗り越えてきた課題は現在、県内4地域で行われている病床再編協議の課題と多くの部分で重なる。

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