第5部・住み慣れた地で最期まで(1) 開業医と病院の連携~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第5部・住み慣れた地で最期まで(1) 開業医と病院の連携

2022/6/5 10:05

 最期まで住み慣れた地域で安心して医療、介護を受けられる地域を実現できるのか―。第5部では、拠点病院とそれを支える病院やクリニック、その先の介護施設、在宅医療、みとりまでの連携について考える。

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トリアージと電話診療に取り組む酒田地区医師会十全堂の佐藤顕会長=酒田市

 「保健所の機能はパンクしている」。昨年8月、新型コロナウイルス感染の県内第5波が押し寄せ、保健所は悲鳴を上げていた。特に庄内地域は深刻だった。感染者数が庄内保健所の処理能力を超える中、酒田地区医師会十全堂(佐藤顕会長)の対応は早かった。保健所が担ってきた入院か療養かのトリアージ(振り分け)を開業医が肩代わりし、自宅療養者への電話診療を始めた。

 同医師会のクリニックのうち半数近くとなる42医院が今も協力している。新型コロナ感染が疑われる来院者を診断し、報告書に結果をまとめる。自宅療養となった場合は、クリニックの医師らが電話で必要となる10日間の経過観察を行う。

 「症状は変わりないですか」。酒田市内で内科の医院を開く佐藤会長(58)は診察の合間に自宅療養者に電話をかける。休みの日や出張で離れる日も電話診療を欠かさない。「一番多いときは1日40件。人生でこんなに電話したのは初めて」と佐藤会長。看護師らに手伝ってもらうこともできるが、医師としての判断が素早くできるので、自身が受話器を握る。

 庄内地域では鶴岡地区医師会が先に電話診療やトリアージの検討に着手していたことも大きかった。「できることはすぐに協力しよう」という土壌もあった。庄内地域唯一の感染症指定医療機関・日本海総合病院がある地元として、酒田地区では同病院の負担軽減に協力するためにも、保健所の要請から1週間で体制を構築し、動き出した。「この取り組みで第5波やその後の感染拡大を乗り越えられた。医師としてできることで力を尽くし、地域医療を支えていく」と佐藤会長は言う。鶴岡地区でも鶴岡市立荘内病院で同様の取り組みを進めている。

 診療科の中でも医師不足が深刻な産科では、妊婦健診と分娩(ぶんべん)の役割を分担する「産科セミオープンシステム」と呼ばれる開業医と総合病院との連携の形が、県内ででき始めている。

 寒河江市のすまいるレディースクリニックは2019年度から健診協力施設として同システムに参加してきた。同クリニックは2人の医師のうち1人がけがで診療に当たれなくなり、昨年6月から細田香苗院長(53)が昼夜なく分娩・外来に携わってきた。昨年は1年で分娩数が300を超えた。体力面などから、苦渋の決断で今年4月末での分娩の休止を決めた。

 これまでも同クリニックに通う妊婦の中に同システムの利用者はいたが、さらなる増加が見込まれる。クリニックと総合病院の「二つの目」で妊婦を診ることができるというメリットの一方、少し心配もある。行政と一緒に精神、生活面を含めたサポートをしてきたケースで「途中で支援が途切れてしまわないか」という点だ。細田院長は「気になる妊婦さんに関し、総合病院、行政と相互に情報を共有するなど、より連携ができれば。(産後の母親の心身の負担を軽減する)産後ケアに力を入れ、患者さんに寄り添った診療を続けたい」と話す。

 分娩を担う総合病院側はこのシステムをどう見ているのか。県立中央病院(山形市)では昨年度、システム利用者の出産が50人ほどだった。同病院の産科医で総合周産期母子医療センターの堤誠司センター長(56)は「クリニックの医師が診てくれることで、妊婦健診にかかる負担は減っている。当初は施設ごとに若干ばらつきがあった検査方法が均一化され、情報交換もスムーズになってきた」と手応えを語る。

 地域医療の理想的な体制とは。酒田地区医師会十全堂の佐藤顕会長(58)は海で作戦を展開する艦隊に例える。最新鋭で強力な旗艦となる軍用艦があっても、護衛や補給、偵察の支援艦がなければ、作戦は遂行できない。「気が付いたら大規模病院が1隻で航行していたという事態は避けなければならない」

 佐藤会長は地域医療を支えてきた開業医の高齢化による減少に危機感を強めている。開業医は予防接種や夜間休日・救急医療の診療支援でも力を発揮してきた。「総合病院などが急性期機能を持ち続けるには、退院後を診る慢性期病院や開業医が元気であり続ける必要がある。開業医減少の最大の課題である後継者不足に地域として対応する必要がある」と指摘した。(本紙取材班)

◆産科セミオープンシステム 妊娠初期から33週ごろまでは近くのクリニックや病院で健診を受けつつ、20、30週の2回の健診は分娩施設を受診、34週以降は分娩施設で妊婦健診を行うという流れ。共通診療ノートがあり、施設間で情報を共有している。妊婦の利便性向上と医師の負担軽減を図ろうと2018年度の村山地域を皮切りに始まった。村山、最上、置賜で分娩7カ所、健診21カ所(協力施設も含む)が参加している。今年1月15日時点で540件の利用があった。

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