第5部・住み慣れた地で最期まで(6) 在宅(下)~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第5部・住み慣れた地で最期まで(6) 在宅(下)

2022/6/10 20:49

 床擦れが悪化し、痛そうにしている人が目の前にいる。だが、その場では「医師に相談し、改めて診察の日時を決めましょうね」としか言えない。「リアルタイムで患者さんに処置ができないもどかしさを感じていた」。医師の診療補助として高度な医療行為などができる診療看護師の黒木ひとみさん(48)は振り返る。

 一般の看護師は医師の具体的な指示の下で患者への医療的処置を行うが、黒木さんのように研修を修了すると、医師がいない場面でも、医師が作成した手順書に従って患者の状況を判断した上で、国が認めた「特定行為」の処置を行うことができる。特定行為は▽胃ろうカテーテルの交換▽気管カニューレの交換▽感染兆候がある人への薬剤の臨時投与―など21区分38行為。床擦れに関しても、黒木さんがその場で判断し、壊死(えし)した皮膚を取り除く処置ができるようになった。

 黒木さんは山形済生病院(山形市)に勤務時、働きながら山形大大学院医学系研究科で学び、2019年に特定研修を修了、診療看護師(NP)の認定を得た。

 「NPは地域のもの(資源)。在宅に行くべきだと思う」。黒木さんの挑戦を応援してくれた当時の上司からは、こんな言葉を掛けられた。それは「地域、在宅で貢献する」という黒木さん自身の思いとも重なっていた。

 高齢化で「人生の最期を住み慣れた場所で」と希望する人の増加が想定される。病気の治療だけでなく、生活背景まで理解した支援が必要となる中で、どのような医療人材が求められているのだろうか。

 診療看護師の黒木ひとみさん(48)は現在、山形済生病院(山形市)と同じ法人が運営し、高齢者介護、児童福祉のサービスを提供する小白川ケアセンター(同市)に勤務する。午前はセンター内の診療所で問診を行い医師をサポート、午後は系列の施設や在宅の高齢者を巡回するなどしている。

 施設や在宅では、傷から菌が入ると敗血症になる恐れもある床擦れの処置などを手掛けるほか、スタッフが「この程度の症状で病院に連れていっていいだろうか」と迷うケースで、アドバイスをする。「この病気はこういう症状が出る。一晩様子を見て、それでも状態が落ち着かなければ受診するといい」。臨床推論を学んだ黒木さんが、声を掛けることで、スタッフの不安が和らぎ、不要不急の受診を減らすことにもつながっている。

 ただ、在宅医療に取り組む医師には、診療看護師の存在が十分認知されていないのが現状。黒木さんは「私たちのような存在の活用法を理解してもらうのが大きな課題」と話す。

     ◇

総合診療の指導医でもある高橋潤医師=川西町・公立置賜総合病院

 施設や在宅での医療で鍵となるのが、診療科の枠を超え、幅広い視野で診断する総合診療の視点を持った医師の存在だ。公立置賜総合病院(川西町)は県内で唯一、総合診療の専攻医を抱える。指導する高橋潤医師(56)は朝日など県内の町立病院、飯豊町の診療所での勤務経験があり、医師生活約30年のうち、25年以上、何らかの形で在宅医療に携わってきた。現在も長井、南陽のサテライトを通じ、訪問診療をすることがある。

 高橋医師は「患者、家族が何を希望しているか、しっかり聞き、専門医を含め多職種の連携をコーディネートするのが私たちの役割」と説明する。病院ではできるが自宅では難しい治療があり、逆に「孫と一緒に」「愛猫を抱く」など、病院ではできないが自宅でできることがある。選択によってどうなり得るのか分かりやすく示すこともその一つだ。高橋医師が診た患者の中には自宅に戻って孫の顔を見て元気になったり、訪問看護師やケアマネジャー、家族と連携し、状態が良くなったりした高齢者がいた。一方、「最期は自宅で」と望んだ患者、家族も症状が悪化すると気持ちは揺れ動く。「患者や家族につらい思いをさせてしまったのでは」。苦い思いとともに心に残るケースもある。

 自身の経験も踏まえ、高橋医師は「重要なのは、変わる思いも酌みながら、話し合っていくこと」と考える。「住み慣れた地域で最期まで」。この希望をかなえるため、総合診療をできる医師、診療看護師など幅広い視野で対応できる医療人材と、そうした人材が活躍できる仕組みが求められている。

特定行為研修 国が定めた特定行為は21区分38行為あり、部分的に研修を受けることもできる。県内の研修機関は山形大大学院医学系研究科、山形大医学部付属病院、日本海総合病院、国立病院機構米沢病院。県医療政策課によると、県内では昨年3月現在で33人が研修を修了している。

診療看護師 日本NP教育大学院協議会の認定資格。現行法では特定行為に加え、幅広く臨床推論、病態生理などを学び、医師の指示下での診療とケアができる。大学院の修士課程で学び、同協議会の資格認定試験に合格する必要がある。県内では山形大大学院が教育機関となっている。海外では一定レベルの診断、治療を行える公的資格があり、日本でも法制化を目指す動きがある。

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