第6部・未来を見据え(1) マイナンバーカード活用~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第6部・未来を見据え(1) マイナンバーカード活用

2022/6/17 09:40
日本海総合病院に設置されているマイナンバーカードの読み取り機。情報共有で安全な医療の提供につながる=酒田市

 持続可能な医療供給体制を構築するためには、常に先を見据え、進化し続けなければならない。最終部の第6部は未来に向け、何が必要かを考える。

    ◇  ◇

 読み取り機にマイナンバーカードをかざし、カメラに顔を向けると、わずか1秒ほどで健康保険証の資格確認が終了し、待ち時間が短縮される。暗証番号入力の手間もない。表示される画面をタッチして患者自身が同意すれば、どんな薬が処方されているのかの薬剤情報や、生活習慣病など特定健診の結果も、医療機関が24時間に限って閲覧可能になり、より安全な医療提供につながる。

 同カードを健康保険証として使える「マイナ保険証」が昨年10月、全国で本格スタート。「オンライン資格確認」の仕組みで、こうしたことが可能になった。

 他にも患者側のメリットはある。年齢や所得に応じて月の医療費の自己負担に上限額を設定し、負担を軽減する高額療養費制度の手続きが、格段に楽になる。これまでは、いったん全額を支払った後に払い戻しを受けるか、事前に限度額適用認定証を発行してもらう必要があった。オンライン資格確認を使えば、その場で限度額を確認できるため、それぞれの限度額を支払うだけで済む。

 医療機関側の利点も多い。患者がすべてを正確に記憶・管理しておくことが容易ではない薬剤、特定健診の情報を把握しやすくなり、健康保険証の確認業務に費やしてきた時間と人件費も大幅に圧縮できる。

 庄内の地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネット(栗谷義樹代表理事)の中核となっている日本海総合病院(酒田市)では、全国で本格運用が始まる前の昨年2月からプレ運用してきた。同病院は1日の外来患者数が1400人を超える規模。削減できた業務量は膨大だ。「患者、医療機関の双方にメリットがあり、活用しない手はない」と島貫隆夫病院長(67)は力を込める。

 マイナンバーカード活用で健康保険証の資格確認が簡単になり、患者の同意があれば、薬剤情報や特定健診結果を医療機関が共有できる「オンライン資格確認」。地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネット(栗谷義樹代表理事)の中核となっている日本海総合病院(酒田市)の島貫隆夫病院長(67)は「医療界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩」と評価する。

 酒田地区では2011年から、患者の同意を前提に病院の電子カルテや服薬などの診療情報をクリニックや介護事業所が閲覧できる「ちょうかいネット」を運用。基幹病院の医師記録や検査結果は100%開示という全国に例を見ない内容で、これをモデルに地区外にも医療情報ネットワークを拡大してきた。

 例えば大動脈瘤(りゅう)という緊急性の非常に高い患者が片道1時間近い場所から救急搬送されてくる際も、データ共有によって、到着前に得た情報で3D画像を作成する。開胸手術をせず、太ももの血管から折りたたんだ人工血管(グラフト)をカテーテルで挿入し、取り付ける「ステントグラフト内挿術」の準備を整えて救命率を上げている。

 日本海総合病院は18年の同ネット設立に先立ち、15年から総務省による同カードの実証実験に協力してきた。その一つに、同病院と群馬大医学部付属病院で、コンピューター断層撮影装置(CT)などの画像情報を同カードを使って共有する取り組みがあり、有用性を確認した。

 来年1月には電子処方箋が始まり、同カードを提示するだけで薬を処方してもらえるようになる。さらに政府は今月7日、オンライン資格確認の導入を23年4月から医療機関・薬局に原則義務付けることを閣議決定した。

 政府は今年夏をめどに、オンライン資格確認の仕組みで閲覧できる情報に手術などの項目を加える方針。より情報が増え、かつ遠隔地の病院とも容易に共有できるようになれば、救急搬送時や大規模災害時にも力を発揮する。

 急に倒れ、自分で説明することができなかったり、避難先だったり、「お薬手帳」などがなくなったりしても、どんな薬を飲んでいたのか、持病があるのか、治療を受けたことがあるのかを、医療機関が正確に把握でき、医療の安全性を高めることができる。

 島貫病院長は「こうした仕組みを平時から活用しておくことが重要。ICT(情報通信技術)は、病院と患者とをつなぐ架け橋になる」と話す。利用可能な施設と、マイナ保険証を活用する住民の双方を増やしていくことが必要だ。

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