第6部・未来を見据え(2) オンライン診療、遠隔医療~明日につなぐ地域医療|山形新聞

明日につなぐ地域医療

第6部・未来を見据え(2) オンライン診療、遠隔医療

2022/6/19 15:03
がん相談外来を担当する全田貞幹医師。庄内にいながら最先端のがん治療にアクセスできる=鶴岡市立荘内病院

 医療界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、業務効率化・財政健全化だけでなく、よりよい医療の提供、患者の利便性向上のため、必要不可欠といわれている。

 新型コロナウイルス感染拡大により、特例として2020年に解禁されたオンラインでの初診は今年4月から恒久化され、患者にとっては受診の利便性が増す。過疎地域や離島に住む住民のメリットは特に大きい。新型コロナなど感染症の拡大時に患者を受診しやすい仕組みでもある。

 厚生労働省の検証によると、21年10~12月のオンライン診療の受診者は約95%が60歳以下。40歳までで7割を超え、0~10歳が最も多かった。高年齢層への普及が今後の課題だ。過去の診療記録があった患者は0~14歳で85%、65歳以上で74%で、これまで受診したことのある医療機関が選ばれていることが分かる。医療機関側から見れば、オンライン診療に対応することで、継続して受診する医療機関として選んでもらいやすくなる。

 酒田市にある県内唯一の有人離島である飛島の高齢者らは、病院に行くため海を渡らなければならない。経過観察や初診段階で遠隔診療が可能になれば、格段に医療を受けやすくなる。山形大の城戸淳二教授が開発した有機ELのディスプレーと照明を使用したリモート診察システムの活用が始まっている。NTT東日本と酒田市、同市の日本海総合病院などとの共同の取り組みで、飛島だけでなく、同市周辺部にある松山診療所ともつなぎ、遠隔診療を行っている。

 身近な病院で最先端の医療を提供する―。デジタルトランスフォーメーション(DX)と病院間の連携により、これが可能になりつつある。鶴岡市立荘内病院と、世界的な研究拠点・国立がん研究センター(東京)が運営する専門病院の東病院(千葉県柏市)は遠隔診療システムを活用し、最新の知見によるがん治療を庄内にいながら受けられるようにするため、実証実験を行っている。情報技術を駆使し、地域医療の充実を図る取り組みだ。

 両病院は2020年7月に連携協定を締結した。以降、東病院の全田貞幹医師(放射線治療科)が毎月1回、荘内病院を訪れ「がん相談外来」を開いている。主治医とは別の医師に診療内容や診断結果について意見を求める「セカンドオピニオン」を聞くことができる。

 がん患者は病名を宣告された後、不安にさいなまれることが多い。鶴岡市にいながら、国内外トップクラスの東病院の医師に治療方針を相談し病状を診てもらえる。できることをやろうという患者にとって選択肢が増え、最善の治療につながることが期待される。「患者がベストを尽くせる。納得して治療と向き合ってもらうためにも、意義は大きい」と荘内病院地域医療連携室のチーフ今野一夫さん(60)は強調する。今月までに延べ60人が利用し、うち5人は東病院での検査や治療を受けた。

 今年3月にオンラインで高解像度のコンピューター断層撮影(CT)画像や電子カルテを東病院で見られるよう、専用回線を整備した。鮮明な画像と音声でやりとりができる。現在は全田医師のみが対応しているが、東病院のさまざまな専門医が遠隔診療を行えるようになる。セカンドオピニオンは自由診療。東病院に行くと最低でも2万~3万円かかり、滞在費や交通費も必要になる。荘内病院での相談外来や遠隔診療であれば10分の1程度で済む。

 情報通信技術を駆使し、東病院の専門医にアドバイスを受けながら荘内病院で手術を行う遠隔手術支援システムも稼働させる予定だ。映像でがん治療の専門医から助言を受け、執刀医が最善の手術を施せるようになる。現在は実証実験だが、数年以内には軌道に乗せたいとしている。

 先進的な取り組みによって、医師や看護師らが地方にいながら先進医療に携われるようになれば、医療スタッフの確保にもつながる。大きな特色を持つことによって、日本海総合病院との役割分担、連携にもつながることが期待される。

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