快適性(下) 東北の車両乗り比べ~山形にフル規格新幹線を|山形新聞

山形にフル規格新幹線を

快適性(下) 東北の車両乗り比べ

2017/5/22 10:58

 東北地方を走る新幹線の各路線と車両を乗り比べ、「乗り心地」を切り口に「ミニ」と「フル」の違いを検証した。秋田駅から盛岡、仙台、福島を経由し、ゴールは山形駅。このルートで秋田新幹線こまち号(E6系)、東北新幹線はやぶさ号(E5系)の両最新車両と一世代前の主力車両の同線やまびこ号(E2系)、山形新幹線つばさ号(E3系2000番)の4車両に乗車した。

 盛岡―秋田間は山形新幹線と同じく在来線区間だが、こまち号は新型のE6系。横揺れを緩和する最高位の装置(フルアクティブサスペンション)が全車両に搭載されている。仙台―盛岡間は国内最速の時速320キロを誇る同じく新型のE5系。E6系と同じくフルアクティブサスペンションが全車両に付いている。

 そして福島―山形間を走るつばさ号(E3系2000番)。同様にフルアクティブサスペンションが付いているが、両端の2両のみ。中央部の5両は緩和機能としては低コストの装置(セミアクティブサスペンション)を載せている。車両の新旧、在来線とフル規格区間―。乗り心地にどんな違いが出るのだろうか。

きついカーブが続く山形新幹線の板谷―峠間では安全運行などの理由で速度が落ちる。GPSを使った手元の速度計では時速63キロを計測した

 秋田新幹線こまち号(E6系)で秋田駅を出発した。盛岡駅までの127.3キロの所要時間は1時間34分。在来線を走る特急いなほ号の車両と比べ、乗り心地はいい。フルアクティブサスペンションの効果を実感するが、急カーブが連続する区間では大きく速度を落とし、揺れも感じる。フル規格区間での滑らかさと比べると差は明らかだ。

 「在来線とフル規格区間で乗り心地に差が出る主要因は線形(カーブなどの線路形状)と、変位(ゆがみや高低差の程度)」。同乗ルポに同行してくれた交通コンサルタントで、JR東日本で長く保守部門に携わったライトレール社長の阿部等さんは解説した。

 まずは線形。秋田、岩手県境は「板谷越え」と同じく峠越え路線。半径が小さいきついカーブが連続する。山陽新幹線開業以降のフル規格新幹線のカーブは原則半径4千メートル以上なのに、在来線区間の盛岡―秋田間は半径300、400メートルの急カーブが続く。当然、安全と乗り心地向上のため速度制限がある。

 衛星利用測位システム(GPS)で速度を計測するスマートフォンの速度計で測ると、きついカーブが連続する区間では時速60キロ台まで下がることも。つばさ、こまちともに在来線区間では最高時速が130キロとなっているが、峠越えでは大きく速度が落ちる。カーブがゆるい区間は速度を上げるので、加速、減速を繰り返す。カーブで感じる横からの力に加え、加減速の際に生じる前後の衝撃が体に響く。

 盛岡駅から仙台駅までの183.5キロはE5系のはやぶさ号。所要時間はわずか39分。それもそのはず、出発後すぐに手元の速度計は310キロ台後半を計測した。200キロ台まで加速中はほとんど揺れを感じない。ポイントは阿部さんが指摘する第二の理由、線路の「変位」。使い続ける際に生じる線路のゆがみ、傾き、高低などのズレの程度だ。

 フル規格新幹線のレールは安全性維持とともに乗り心地を高めるため、細かくレール状態をチェックし、上下、左右のゆがみを調整するとともにレール表面の凸凹を削り、常に滑らかに整備している。もちろん在来線区間も整備しているが「フル規格区間の方がコストを掛けた変位しにくい線路構造で、線路保守の基準も厳しい」と阿部さん。この差が乗り心地の優劣に出る。

 福島駅から山形駅までは乗り慣れたE3系2000番のつばさ号。福島駅を出てすぐに山岳地帯に入る。特に国内の幹線の最難所と評される庭坂―関根間は半径300、400メートルの急カーブが続く。手元の速度計は頻繁に60キロ台前半に落ちた。新庄―東京間のうち米沢―福島間が一番疲れると言われるのは、このあたりに原因があるようだ。

 米沢駅を出て山形駅までは在来線特有の乗り心地となるものの、速度は100キロ台に達した。阿部さんは「板谷越え区間以外は在来線でも線路と車両の工夫で乗り心地を保ちながら速度向上できる余地は大きい」と指摘した。

 天候に左右されない、災害に強い、高速化などフル規格化を含め山形新幹線の機能強化が求められる理由は多くある。その中に「乗り心地の向上」の議論も大きく取り上げていいのではないだろうか。

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