やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第2部・原点に立ち返る[1] 三重・伊勢(上)

2014/2/27 08:05
20年に1度の式年遷宮後も参拝者でにぎわう伊勢神宮の内宮。特別参拝は中央の建物の奥で行う=三重県伊勢市

 石敷きの参道を進む。いくつもの鳥居をくぐると、真新しい社殿が間近に迫る。ヒノキの巨木を使い、かやで屋根をふいた姿は、金色に輝いても見える。

 伊勢神宮(三重県伊勢市)は、時代を超えて参拝者、観光客を集め続ける。20年に1度の式年遷宮があった2013年の参拝者数は1420万人に達した。主要祭事は昨秋に終了したが、今もシニアの団体や家族連れ、若い女性グループとさまざまな参拝者であふれる。

 今月上旬、その中に山形県からのツアーの一行(山新観光主催)がいた。うち30人が礼服で正装し、内宮(ないくう)で神社関係者らに限られている特別参拝を行った。御正殿(ごしょうでん)を四重に囲む垣根の二つを越え、二礼二拍手一礼の参拝をした。わずかな時間だったが、一般参拝者とは違う「特別感」があった。

 11年にも訪れたという天童市老野森3丁目、茶道師範佐野つる子さん(77)は特別参拝をしたいと2度目の伊勢参りを決めた。「新しい社殿も見られ、神聖な気持ちになった」と笑みを浮かべた。

 伊勢神宮には、パワースポットブームで訪れる若者も、特別参拝のような本物を求める参拝者も、ともに満足させる奥深さがある。そして、全国から人が集まる背景には、魅力を発信し続ける観光関係者による仕掛けがあった。

 旅の原点は神社・仏閣への参拝といわれる。定期的に行われてきた遷宮やご縁年は、現代の観光キャンペーン的役割も果たし、情報発信が繰り返されてきた。今年は国内最大規模の観光誘客事業であるデスティネーションキャンペーンが本県で開催される。山形新聞、山形放送の8大事業「やまがた観光復興元年」第2部は、人を引きつける伊勢神宮と、江戸時代にそれと並んで「東の奥参り」と称された本県の出羽三山にスポットを当て、地元の人々の知恵と戦略からチャンスを生かす方策を探る。

参拝前に心身を清める五十鈴川御手洗場。伊勢神宮が多くの人を引きつける背景には観光関係者らの情報発信があった=伊勢神宮・内宮

 三重県伊勢市は人口約13万人の都市。面積の4分の1を伊勢神宮が占め、神宮とともに歩んできた。20年に1度、社殿を建て替える式年遷宮は伊勢の一大行事で、定期的に行うことで、社殿も信仰も、建築技術、文化も守り続けてきた。2013年の遷宮の費用総額は550億円。全て信者や参拝者からの浄財で賄われている。

 過去にも遷宮のたびに、その年と翌年に参拝者が増加している。しかし、20年前、40年前の遷宮の年は850万人前後。今回の1420万人は爆発的な伸びと言える。その理由の一つが、伊勢市と伊勢商工会議所、市観光協会などで組織する御遷宮対策事務局が仕掛けた情報発信だ。

 今回の遷宮では05年からおよそ30の祭事・行事が行われてきた。その中に伊勢市民らが社殿に使うヒノキを内宮(ないくう)、外宮(げくう)に引き入れる「御木曳(おきひき)」という行事がある。06、07年に伊勢で実施されたが、これを07年2月、東京・六本木ヒルズで再現。13年2月には札幌市の「さっぽろ雪まつり」で伊勢神話への旅をテーマにした大雪像を制作した。

■5億円超の効果

 いずれも初の試みで、予算が限られる中、「費用対効果の大きい手法を」(奥野勇同事務局長)と考え抜いた末の企画だった。雪まつりでの事業は予算2千万円で、テレビや新聞、雑誌に取り上げられたPR効果が5億円を超えたと試算されるほどだ。

 前回までの遷宮とは異なる環境としてインターネットの普及がある。伊勢はこれを最大限に生かしている。市観光協会は観光情報のホームページ(HP)を利用者目線でリニューアル。「外から来る方が欲しい情報をワンクリック、ツークリックで得られるようこだわった」と西村純一同協会専務は胸を張る。さらに、アイドルグループAKB48のメンバーを起用してテレビ番組を制作。動画サイトでも繰り返し再生され、テレビ放映後も情報を拡散している。

■催しでにぎわい

 同じく情報発信源になっているのが、毎年行われる伊勢神宮の「神嘗祭(かんなめさい)」に合わせ、日本各地の祭りや伝統芸能を集めた「大神嘗奉祝祭 祭のまつり」だ。市民有志や伊勢市などで組織する実行委員会が01年から開催。13年は山形市の民俗文化サークル「四方山(よもやま)会」をはじめ、徳島県の阿波踊りや沖縄県のエイサーなど23団体が参加した。イベント自体が新たなにぎわいとなるだけでなく、出演団体、観覧者による情報発信効果は大きい。

 一連のPRにより神宮の年間参拝者は10年に800万人を突破。遷宮のあった13年の1420万人につながった。

 【メモ】伊勢神宮は、内宮と呼ばれる皇大(こうたい)神宮と、外宮と呼ばれる豊受(とようけ)大神宮をはじめ125の神社の総称。式年遷宮は、内宮と外宮の正宮(しょうぐう)と、次いで位の高い14の別宮(べつぐう)の社殿を建て替え、奉納する宝物や装束なども新調して神様に引っ越してもらう一連の祭事。約1300年前から繰り返されてきたとされ、2013年が62回目。

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