やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第3部・変貌する温泉地[6] 誘客にドイツの発想

2014/4/3 16:48
早朝ウオーキングの途中、「ヤッホー」と叫んで自然を満喫する県外からの参加者。上山市では地域資源を活用した誘客事業が展開されている=3月18日、同市葉山地区

 3月中旬の上山市葉山地区。早朝の透き通るような空気を吸いながら、県外の観光関係者が花咲山のウオーキングコースを上っていく。中腹まで来ると、蔵王の山並み、温泉宿が点在する街並みが目の前に広がった。「宿のすぐ近くに気軽に行ける里山があるなんてうらやましい」。参加者の一人が笑顔を見せた。

 上山市は2008年度から、温泉と里山の地域資源を生かした上山型温泉クアオルト(保養・療養地)事業を展開している。自然を体感しながら野山を歩き、健康増進に役立てるドイツの考え方を参考にした。体表面温度を測りながら自分のペースで歩くクアオルトウオーキングは、市民に限らず、観光客にも体験機会を提供している。健康をキーワードに「上山=質の高い健康保養地」の図式を完成させ、誘客に結び付ける狙いだ。

 「かみのやまクアオルトツーリズム」を掲げて地域は連携する。例えば葉山の旅館「彩花亭 時代屋」は宿泊客を対象にした早朝ウオーキングを毎日実施。1人からでも、いつでも参加できる点は、地域を代表する観光資源とするために重要な要素だ。社長でかみのやま温泉旅館組合長の冨士重人さん(65)が自らガイドを務める。参加者は1日数名だが、冨士さんは「年齢層は20~80代と幅広い。クアオルトを知っていても知らなくても参加してくれる人がいる」。少しずつ手応えを感じている。

 温泉街を挙げた取り組みで地域の魅力を高めることは、選ばれる観光地になるために不可欠になっている。かみのやま温泉は、県内先進地の一つだ。

 「質の高い健康保養地」としてPRするには環境への配慮も求められる。そんな発想の下、上山市は2011年度から電気自動車(EV)の普及に努めている。EVで訪れる観光客に対応するため、温泉旅館が充電器を設置する場合、10万円を上限に費用の半分を補助。かみのやま温泉旅館組合に加盟する計21の旅館・ホテルのうち、9軒が取り付けている。利用実績はまだ少ないというが、EV需要の高まりを見据えたハード面の整備は進む。

電気自動車利用客への対応が進む上山市内。現在は9軒の温泉旅館が充電器を設置している=同市新湯

■情報誌発行

 温泉地ぐるみで展開される地域づくり。旅館関係者らで組織する「ゆかたの似合う町づくり実行委員会」は10年、市内の飲食店や観光スポットの情報を網羅したフリーペーパーの発行を開始した。従来の街歩き用観光パンフレットを一新し、女性客を意識した読み物コーナーの充実を図った。年に2、3回のペースで発行し、お薦めのカフェやスイーツ、貸し切り風呂がある旅館など、地元住民だからこそ知る情報を掲載している。

 タイトルは「とぅるとぅる」で、散歩でまちを「通る通る」、麺をすすって「ちゅるちゅる」、温泉で肌が「つるつる」の言葉から名付けた。1万部を発行した創刊号はすぐに在庫がなくなり、バックナンバーを求める観光客も多い。

■利益を共有

 ほかにも12年、観光客の減少に歯止めを掛けようと、同温泉旅館組合青年部が中心となって新たな試みを始めた。宿泊者が複数の旅館のサービスを受けられる「マルシェア」。フランス語の「Marche」(市場)と英語の「Share」(共有)を組み合わせた言葉で、例えばA旅館に宿泊しながら、B旅館のエステティックやマッサージを受けられる。一つの宿泊施設が観光客を独占するのではなく、手を取り合って利益を共有する目的。現在は各旅館で受け入れ準備を進めている段階だが、6~9月の山形デスティネーションキャンペーンを経て態勢を確立したい考えだ。

 全ての取り組みに共通する思いは、長期滞在型温泉地の実現だ。市観光課は「温泉そのものをありがたがる時代ではなくなった。他地域との差別化を図り、個性を強化しなくてはならない」と強調する。「とぅるとぅる」と「マルシェア」に携わる市観光物産協会の五十嵐伸一郎副会長は「『1泊ではもったいない上山』として、宿泊者が数日間泊まってくれるまちにしたい」。行政と地域が一体となった挑戦が続く。

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