やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第7部・新しい旅のカタチ[2] ヘルスツーリズム

2014/8/20 10:47
低カロリーのこんにゃく懐石。和服の店員が説明しながら提供するもてなしもツアー参加者には好評だ=上山市・こんにゃく番所

 去年11月、上山市で「出張・健康道場」と銘打ったツアーが実施された。クアオルト(保養・療養地)事業を展開する市が、歯磨き製品販売などのサンスターとタイアップ。「頑張らず、楽しく、地域資源で健康になる」(市クアオルト推進室)がコンセプトだ。首都圏を中心にした健康志向の参加者に最も好評を得たのが「こんにゃく番所」での懐石だった。

 こんにゃくとは思えないお造りや煮物が漆塗りの器で順に運ばれる。スイーツの「ら・ふらんすみぞれこんにゃく」は全日空のファーストクラス機内食でも採用された逸品だが、締めて400キロカロリー。「健康に関心の高い人の多くはかつての食通で、高級店に行き慣れている。低カロリーや繊維だけでなく、一皿ずつ提供する懐石のもてなしも受けたんでしょう」と経営する丹野こんにゃくの丹野益夫社長(63)は冗舌に語る。

 上山のクアオルト事業が進化している。指導を受けながらのウオーキングに筋肉・骨量測定、健康指導、温泉を組み合わせたヘルスツーリズムという新しい旅行形態の地位を確保しつつある。市はおととし、山形銀行とクアオルト構想をめぐり連携協定を締結。健康道場は協定を形にした初の事例になった。

 健康道場は今年5月にも開催し、秋に第3弾を計画中。市観光課の石井隆課長(59)は「生活習慣病予備軍と言われる層にうってつけ」と手応えをつかんだ様子で、企業の健康保険組合にも同様のツアーを売り込み、医療機関との連携も進めている。

40代以上を対象にした毎日ウオーキング。クアオルト事業をどう観光面で生かしていくかが鍵だ=上山市・蔵王坊平コース

 上山市がお家芸のクアオルト事業をベースに切り開いてきたヘルスツーリズムは、政府が成長戦略の一つに掲げる「健康寿命の延伸」を先取りした取り組みとして期待される。将来的には健康づくりだけでなく、医療と結び付けたメディカルツーリズムも見据えている。

 ■官金、強力タッグ

 同市は2012年、山形銀行と連携を開始。産学官金の中で官と金の連携は意外に少なく、山形銀が県内自治体と連携を組むのは初めてだった。「行政の情報は限られる。企業の情報やニーズをつかんでいる銀行の力は大きい」と上山市観光課の石井隆課長(59)。クアオルト構想を立て観光面で磨き上げていく上で強力なパートナーを得た。

 山形銀は本業と切り離した成長戦略推進チームを発足。「構想を立てて終わりのシンクタンクとは一線を画す。アクションに持って行くのが役目」とリーダー役の垂石卓朗総合企画部副部長(49)は言い、週3日は市役所にスタッフを送り込み、商品開発にも関わる。健康重視の自治体を探していたサンスターを市とつなぎ、旅館や食を組み合わせ旅行パックに仕上げた。

 健康寿命の延伸の実現には、病気にならない予防医療の取り組みが核になる。国は「糖尿病が疑われる人を対象に、ホテル・旅館を活用して行う滞在型の新しい保健指導プログラム」の開発・普及促進を目指しており、サンスターと市がタイアップしたツアーは先進事例になり得る。

 ツアーでは過密なスケジュール、指導ずくめといった課題も残った。ヘルスツーリズムはまだ確立された分野ではなく、全国各地で模索や実験が続いている。「健康は人生を豊かにするための投資というとらえ方を広めたい。そこに地域資源を使ってどう魅力的に展開していけるか」。同市クアオルト推進室の青山真主査(39)はこう展望する。

 ■層絞り売り込む

 山形銀チームが次のタイアップ先として見据えるのは地元企業、そして医療機関。山形大が19年10月を目指す重粒子線がん治療導入にも照準を合わせる。健康志向派、生活習慣病予備軍、療養患者…と層を絞りピンポイントで売り込む自前の形を作りたい。クアオルトを軸にした受け入れ態勢を確立することは、高度医療を受ける富裕層受け入れの仕組みづくりにもつながっていく。

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