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やまがた観光復興元年

第7部・新しい旅のカタチ[3] ペットツーリズム(上)

2014/8/22 12:30
ペットの受け入れに積極的な施設が多い山形市蔵王温泉では、犬と楽しむ多彩なイベントが企画されている=ペンション「ヒューゲル・ジョニーダ」

 国内で未就学児よりも犬の数が多いという事実をご存じだろうか。2013年春の統計で、未就学児の数は約633万人(総務省)、役所に登録された犬の数は約679万頭(厚生労働省)。犬のいる家庭向けマーケットの大きさに着目し、「犬と泊まれる宿」として集客しようという施設が県内で増えている。

 7月のある週末。山形市蔵王温泉のペンション「ヒューゲル・ジョニーダ」のドッグランで、30メートルを走りタイムを記録する催しが開かれ、犬と飼い主が和やかな時を過ごしていた。8歳のチワワと婚約者と共に参加した山形市下条町4丁目、会社員市橋優希さん(29)は、同ペンションのレストランで昼食を取った際、イベントを知ってエントリーした。このレストランを選んだのも「犬の入店OK」だからだ。

 蔵王温泉では、2011年に犬との宿泊を受け入れている施設が任意団体「蔵王クランドアニマーレ」を設立。5社6施設が加入している。こうした団体は県内にほかにないという。組織化したことで、企業や団体との協力関係を結びやすくなった。蔵王でロープウエーを運行する3社に働き掛け、夏季はいずれも犬の乗車(有料)を可能にしてもらった。

 さらに、単独では難しかったイベントの開催が可能に。9月27日には愛犬とロープウエーに乗って御釜周辺をトレッキングするツアーを予定する。情報発信力も向上。負担を分け合うことで大手旅行雑誌、新聞への特集広告掲載を実現したほか、団体のウェブサイトを整備した。

 6施設を合わせ、ペットと泊まれる部屋は約40室。地域で団体を受け入れることができる規模だ。ホテルや旅館、ペンションなど多様な施設から選べる点も強みとなっている。

ペットと並んで入浴しながら緑の眺望を楽しめる展望風呂。ペット連れで楽しめる工夫を凝らす施設は多い=山形市蔵王温泉・大平ホテル

 山形市蔵王温泉の中で犬と宿泊できる部屋数が最多の大平ホテル。受け入れを始めた背景にはスキー客の減少があった。市の統計によると、蔵王温泉のスキー客は約20年前の4分の1。スキー以外での集客を模索した岡崎靖社長(45)は多方面の情報を収集する中、ペットツーリズムの可能性を知った。

 ■客足は年3割増

 先行していた栃木県那須高原を訪れると、「犬OK」のホテル・飲食店がそこかしこにあり、地域全体がペット連れでにぎわっていた。「すごい市場だ」。その大きさを実感し08年に3部屋で受け入れを始めた。

 連れてくるペットの9割以上は犬。犬が苦手な客は足が遠のいたが、オフシーズンだった夏季にペット連れが次々やってきた。宿泊客は、冬はスキー客が9割、夏は犬連れが8割。スキー客の減少分を埋めるにとどまらず、客足は全体で年3割程度伸びた。清掃の徹底など一般客より経費は掛かるものの、経営全体ではプラスになるという。

 現在は一般の宿泊客と棟を分け、全34部屋中14部屋で対応。犬用と飼い主用の浴槽を並べた貸し切り展望風呂、運動不足に効果があるペット専用酸素カプセルと設備も充実させた。

 ペット連れの宿泊客は、リピーターになる割合も、再び訪れる頻度も一般客より高いのが特徴だ。任意団体の蔵王クランドアニマーレを構成する6施設には、市内や隣県から毎月通う常連もいるという。「温泉好きでも、同じ宿にこれほどの頻度で泊まる人はそうはいない。ペットと一緒に泊まれるからこそ」と各施設の関係者は口をそろえる。

 ■蔵王全体を周遊

 ペットを受け入れる地域が全国に増える中、蔵王が選ばれるには何が必要か。岡崎社長は「ペット連れが地域全体で観光し、遊べる環境」を挙げる。大平ホテルでは昨年、犬の預かりができる個室(7室)を整備。犬を預けての外出や犬が入れない施設への宿泊も可能になり、利用客の行動の選択肢が増えた。

 蔵王クランドアニマーレの活動が知られるにつれ、地域内に犬の入店が可能な飲食店が増えたが、さらに多くなればもっと魅力が増す。各施設のスタンスが一目で分かることも重要だ。現状では、ペットは建物内まで入れるのか、外で待つのはいいのか、受け入れないのか分かりにくい。岡崎社長は「判別できるようステッカーを貼ったり、マップを作成したりしたい」と話す。ペット連れにはもちろん、動物が苦手な客にも親切だからだ。

 蔵王クランドアニマーレの代表で約15年前から犬連れの宿泊を扱う吉田屋旅館の若女将佐藤千草さん(46)。犬に関連する情報交換が活発な飼い主の口コミ力にも期待する。「あの店は犬連れで入れて料理がおいしかった、どこそこの風呂がよかったと蔵王の施設を紹介し合い、多くの人に周遊してほしい」。ペットの受け入れが、地域振興につながることを願っている。

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