やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第7部・新しい旅のカタチ[7] パワースポットブーム

2014/8/26 12:49
立石寺、慈恩寺、若松寺を巡る旅に、オリジナルの御朱印紙を手にした若い女性が数多く訪れている=山形市・山寺立石寺

 山寺立石寺(山形市)で悪縁を切って慈恩寺(寒河江市)で若返り、若松寺(天童市)で良縁を結ぶ―。村山地域の三つの名刹(めいさつ)を巡る旅が女性に受けている。巡り終えた人には結願ラスクをプレゼント。スマートフォンで引くおみくじも用意し、運試しを楽しめる。

 7月上旬にPRを始め、その月だけで約200人がスマホおみくじを引いた。引かなかった人を含めると旅の参加者はその数倍とみられる。

 パワースポットブームで御朱印を集める「御朱印ガール」と呼ばれる女性たちが現れるほど、寺院巡りの人気が高まっている現状に着目。村山地域7市7町の行政と観光協会などで組織するやまがた広域観光協議会が、山形デスティネーションキャンペーン(6月14日~9月13日)に合わせて企画した。

 各寺で表紙デザインが異なるオリジナル御朱印紙を1500枚無料配布。期間は7月5日~9月15日の計画だったが、人気ぶりに11月末までの延長を決めた。都合や気分に合わせて回る順番は自由に選べ、毎日受け付けているとあって、ほとんどが個人客。協議会がメーンターゲットとした仙台圏の30~40代女性だけでなく、東京、神奈川など首都圏からも訪れる。

最上三十三観音打ち止め満願の寺・庭月観音。各地に点在する三十三観音は、周遊につながる素材だ=鮭川村

 旅行会社からの問い合わせも相次ぐ。来年度以降は山寺観光協会を窓口に、旅行会社のツアーを受け入れられるよう準備を進めている。山寺は、立石寺と同じく慈覚大師円仁が開いたとされる岩手県平泉の中尊寺・毛越寺、宮城県松島の瑞巌寺を結ぶ「四寺廻廊(しじかいろう)」でも観光客を呼び込む。同協会の遠藤正明商工事務部長(52)は「ルートが明確であることが、人を呼ぶ要因だろう」と語った。

 国内有数の歴史ある巡礼地・最上三十三観音。開創は室町時代までさかのぼる。12年に1度、御開帳を行っており、2008年には延べ約100万人が全札所を回った。県内で年間100万人が訪れる観光地は、道の駅鳥海ふらっと(遊佐町)、松が岬公園(米沢市)、蔵王温泉(山形市)の3カ所しかない。

 北は鮭川村、南は上山市までの広範囲に点在し、周囲には温泉や名所、郷土食を提供する場所がある。庄内、置賜三十三観音も同様で、広範囲に経済波及効果が期待できる素材だ。

 ■祈りと癒やしと

 パワースポットブームに乗り、最近は20~30代も訪れる。最上三十三観音札所別当会長で、第20番札所小松沢観音(村山市)別当の佐竹義弘さん(72)は長い時間、静かな時の流れの中に身を置く若い女性に会ったことがある。「若者も大変な世の中。救いだろうか、何かを求めて来る人が多い」。今、祈りや癒やしの場所として幅広い世代に必要とされていると感じている。

 今年は山形デスティネーションキャンペーン(6月14日~9月13日)に合わせ、観音まつりを実施。観音経を1文字ずつ書いた散華(さんげ)を御朱印した人に渡し、全札所の散華を集めると十句観音経が完成する仕掛けだ。すでに2千枚以上を配布した札所もある。

 最上三十三観音の特徴は、地域名がついた札所が多い点だ。小松沢、平清水(山形市)高松(上山市)延沢(尾花沢市)庭月(鮭川村)。住民が地域の心のよりどころとして守り、親しんできたということだ。「金や朱に塗られたきらびやかなお堂はないが、本物の歴史がある。新しいパワースポットとは違う」と別当の一人は言う。

 ■地域資源の一つ

 寺院や神社の宗教行事を行政がPRするのは、長く政教分離の観点から難しいとされてきた。しかし、それらは観光振興の視点から見直され始めている。6、7月に行われた慈恩寺(寒河江市)の秘仏御開帳で、寒河江市は1年前から旅行エージェント訪問などを実施して情報を発信し、全国から人を呼び込んだ。市さくらんぼ観光課は「慈恩寺を地域資源の一つとしてとらえた」と話す。

 慈恩寺と山寺立石寺(山形市)、若松寺(天童市)を巡る旅を企画したやまがた広域観光協議会。事務局の県村山総合支庁観光振興室の武田剛室長(57)も同様の考え方に立つ。「周遊する仕組みをつくれば滞在時間が長くなり、食事や買い物、宿泊を通じて地域全体の振興につながる」

 本県は全域に奥深い精神文化が受け継がれていながら、全国的な知名度は低い。パワースポットへの人気が定着しつつある今は、特長を生かす絶好の機会となる。

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