異変-生態系クライシス

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第1部・気候変動(1) プロローグ

2023/1/4 20:00
年々、小さくなっているとの指摘がある蔵王の樹氷。近年は害虫により、枯死してしまったアオモリトドマツも多い=山形市・蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅付近

 ホモ・サピエンスは自然と共に生きていた。木や石を切り出す技、火を操るすべを身に付けた「ヒト」はやがて山を削り、化石燃料によりエネルギーを生む手段を獲得し、街を造った。進化した「人」は今、文明と引き換えに恩恵を得てきた自然の猛烈な「異変」に直面している。

 「人間が引き起こした気候変動が、過去に例がないような豪雨や高温といった極端な現象の強度や頻度を拡大させ、人間社会や自然界に悪影響や損害を引き起こしている」。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2022年2月、第6次報告書の中で明言した。産業革命前と比較した世界の平均気温は1.5度程度上昇しつつあり、温暖化は「生態系や人間に複数のリスクをもたらす」とも指摘した。

 世界的に「脱炭素」の動きが加速しているものの、繊細な自然は温暖化の余波をもろに受ける。蔵王の樹氷は年々、小さくなっているとの指摘があるほか、近年は害虫によるアオモリトドマツの枯死が増え、本県の冬のシンボル「アイスモンスター」が見られなくなるとの懸念が広がる。リンゴの病害が増え、サクランボの作柄も不安定な年が多くなった。生態系や産業への影響を見逃すことはできない。

 海に目を向ければ、100年間で日本海中部の海面水温は平均で1.80度上昇した。日本海では近年、温暖な海を好むサワラの漁獲量が増える一方、冷たい海を好むサケが減少傾向にあり、イカの漁場は本県以北へと北上している。

 温暖化と気候変動は密接な関係にある。昨年12月には気象庁が「顕著な大雪に関する気象情報」を19年の運用後に初めて発令し、県内各地が大雪に見舞われた。夏には毎年のように豪雨が県内を襲い、各地に甚大な被害を及ぼしている。気候変動は災害対応の観点からも生活に直結する重要な問題だ。

 46億年の地球の歩みを思えば、これらはほんの一瞬の出来事なのかもしれない。しかし、私たち「人」には今だからこそできることがあるはずだ。「人類の歴史がはじまって以来、いままでだれも経験しなかった宿命を、私たちは背負わされている」(レイチェル・カーソン著「沈黙の春」)。山形新聞は年間企画「異変―生態系クライシス」を通じ、自然の「異変」を直視し、適応するすべを考える。

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