異変-生態系クライシス

>>山形新聞トップ >>異変-生態系クライシス >>第1部・気候変動(3) アオモリトドマツ(下)

第1部・気候変動(3) アオモリトドマツ(下)

2023/1/6 20:00

 白一色の世界で、無数のアオモリトドマツが吹きすさぶ風雪に耐えていた。年の瀬を迎えた山形市の蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅周辺。いずれの木々にも氷雪を受け止めるはずの常緑の葉は付いていない。枯れ果ててなお雪をまとう姿が、今ある危機を無言で伝えているようだった。

 樹氷の「骨格」となるアオモリトドマツは現在、深刻な枯死被害に直面している。山頂駅周辺の約17ヘクタールは全て枯死し、自然回復は困難な状態となった。直接的な原因は虫による食害だが、被害に至る過程には地球温暖化や微小粒子状物質「PM2.5」など複雑な要因が絡み合う。

 将来、樹氷が消えてしまいかねない危機に、林野庁山形森林管理署や県は稚樹の移植試験に乗り出した。官民一体となった支援の輪も広がりつつあり、樹氷再生に向けた取り組みが大きく動き始めている。

広範囲にアオモリトドマツが枯死した蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅付近=昨年7月、山形市(関係各所の許可を得てドローンで撮影)

 アオモリトドマツの枯死問題はさまざまな要因が挙げられるが、底流には環境問題が潜んでいる。微小粒子状物質PM2.5の飛来によって木々を育む土壌が弱り、温暖化による気温上昇でトドマツノキクイムシの活動が活発化したとされる。リスクは静かに積み重なり、枯死被害は不可避の状況となっていた。

 樹氷再生に向け、林野庁山形森林管理署や県は2019年度に稚樹の移植試験を始めた。被害が少ないエリアで自生する稚樹を採取し、特に被害が大きい標高約1600メートルの蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅周辺に植え替えた。

 厳冬期の環境に耐えられるか未知数だったが、これまでに植えた100本超の稚樹はおおむね順調に成長している。植栽しやすいようにポットで苗木を育てるポット苗化の研究に取り組むほか、将来に備えて種子の採取も進めている。同管理署は「移植試験に手応えを感じている」とし、手探り状態だった樹氷再生への道筋が浮かびつつある。

風雪に耐えるアオモリトドマツ。枯死被害で樹氷を形成しにくくなっている=昨年12月26日、山形市・蔵王ロープウェイ地蔵山頂駅周辺

 地元・蔵王温泉の関係者も地域の宝である樹氷を守りたい気持ちが強い。蔵王温泉観光協会の伊藤八右衛門会長(74)は「昔の樹氷はもっと大きくて格好よかった。できることがあれば協力したい」。蔵王ロープウェイの斎藤好美索道事業部長(50)は「被害を憂うだけでなく、みんなで未来への希望を共有、発信し、関心を持ってもらうことが大切だ」と力を込める。

 現状を知ってもらおうと、官民一体となった動きも出始めている。山形新聞、山形放送は2021年から8大事業として「みどりのまなび 樹氷再生への歩みプロジェクト―やまがたの森ファミリースクール」を開催。多くの親子に現地での植栽を通じ、樹氷を守る大切さを伝えている。

 樹氷研究の第一人者である柳沢文孝山形大名誉教授(66)は「みどりのまなび」を引き合いに「実際に現地に行って体感してもらうことが必要だ」と指摘する。一人一人が関心を持つことが樹氷の再生につながり、ひいては環境問題を食い止める力となり得る。

 アオモリトドマツの枯死問題 2013年にガの一種であるトウヒツヅリヒメハマキの幼虫が大量発生し、大規模な葉の食害を引き起こした。16年にはほぼ収束したが、樹勢が衰えた樹木にトドマツノキクイムシが入り込んで内部を食い荒らし、枯死被害が急速に広がった。被害は落ち着いたが、山頂駅周辺は約17ヘクタールにわたり枯死木のみとなった。

[PR]
異変-生態系クライシス
[PR]