異変-生態系クライシス

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第1部・気候変動(4)  温暖化への対応

2023/1/7 20:00

 丸々と大きくなったかんきつ類の実が摘み取られていく。酒田市の沿岸部・浜中にある県庄内総合支庁産地研究室では、スダチやミカンなど、南・西日本が主産地の「かんきつ類」のうち、本県で生産可能な品目を検討するための試験栽培が行われている。地球温暖化への適応策を探る取り組みの一環だ。

 本県農業の主力品目・コメは長く冷害の影響を受けてきた。冷涼な東北地方でも生産できるよう、品種改良が重ねられ、今日のブランド米が確立されてきた歴史がある。しかし、近年は温暖化への対応が農林水産業の喫緊の課題となっている。

 県は2015年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書など、最新の科学的根拠に基づき「地球温暖化に対応した農林水産研究開発ビジョン」を改訂。かんきつ類の可能性を模索する取り組みは、同ビジョンに盛り込まれた新規作物導入に向けた研究として進められている。

試験栽培されているレモン。研究段階だが露地栽培でも収穫できるようになった=酒田市

 曇天と強風。庄内地域の冬らしい天候となった12月初旬。雲の切れ間から降り注ぐ、陽光を浴びていたのはレモンだ。まだ研究の途上で、生産現場での栽培は先の話だが、酒田市浜中の県庄内総合支庁産地研究室の圃場では今季、露地栽培でも収穫できるまでになった。

 このレモンは、リスボンレモンと日向夏(ひゅうがなつ)をかけ合わせ、国の研究機関・農研機構が育種した「璃(り)の香(か)」。まろやかな酸味と豊富な果汁が特徴だ。産地研究室では3本の木で試験栽培し、今季は約30個の実を収穫することができた。それでも担当者は「まだ安定していないし、前の年はほとんど実を付けなかった」と研究の難しさを語った。

 産地研究室の圃場では温州ミカン、スダチなども栽培している。中でも、有望株はスダチだ。既に「北限のすだち」として本格的な栽培に向けた取り組みも進みつつある。他のかんきつ類に比べ、果実表面の着色を気にすることなく出荷でき、耐寒性もあるため、庄内地域での生産者も出始めている。

 庄内地域の沿岸は、内陸部に比べ比較的温暖で夏場の日照も確保できるが、かんきつ類の栽培で課題となるのは、冬場の強風への対策。庄内特有の海からの風で葉が落ちると、樹勢が弱り、実を付けなくなることが懸念される。近年は集中的な大雪もある。本格導入に向けては、温暖化の影響とされる近年の「冬の嵐」への対応など、越冬技術の確立が鍵となっている。

 「新たな品目の可能性を探ることも重要だが、生産現場を支えている主力作物の温暖化対策を急ぐ必要がある」と関係者の一人は危機感を口にする。確実に進んでいる温暖化を見据えた試験栽培を進める一方、サクランボなど本県主力の果物を、いかに異常な暑さと極端な寒さから守るか。気候変動を受け、本県農業の最前線で両にらみの対応が進んでいる。

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