養蜂ミツバチが大量死するケースが10年以上前から県内外で報告されている。「果樹王国」を掲げる本県にとって、花粉を媒介するミツバチの減少は課題であり、被害に遭う養蜂業者にとっては死活問題となっている。
その要因は長く「謎」とされているが、水稲のカメムシ防除時期にミツバチが激減したことなどから、同時期に出回り始めたネオニコチノイド系農薬との関連が指摘されている。欧州各国が「予防原則」を基に農薬の規制に踏み切る一方、日本では因果関係の検討を含めて慎重な対応となっている。
農林水産省が公表する「農薬が原因の可能性がある蜜蜂(みつばち)被害事例報告件数」(2021年度)の過去5年間の記録を見ると、県内では18年度に1件が報告されたのみとされる。本県で、ミツバチの問題はほぼ解消されたのだろうか。今回、取材で訪れた真室川町の養蜂業者は10年以上にわたり大量死に苦しんでいた。
真室川町の山あいにある集落で2008年から養蜂業と農家民宿を営む大沼有一さん(69)=同町大沢=が「異変」に気付いたのは12年だった。秋になると、巣箱の周りでセイヨウミツバチの死骸が見つかるようになった。繁殖力も弱まり、80群(1群は約2万匹)のハチは年々減っていった。ハチを追加購入してしのいでいたが、原因が分からない。
欧米では06年ごろから飼育中の巣箱などから働き蜂が突然姿を消し、群れが維持できなくなる蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれる現象が報告されていた。国内では12年ごろから大沼さんと同様にミツバチが大量死するケースが発生。そんな折、国内外の研究者から、ネオニコチノイド系農薬の影響を指摘する調査や実験の結果が発表されるようになった。
ネオニコチノイド系農薬は、タバコに含まれるニコチンに似た物質を主成分とする殺虫剤。効き目が長続きすることなどから、カメムシの防除などで広く使用されている。
大沼さんは毎年ハチを購入し、17年には山形新聞社のクラウドファンディング「山形サポート」を利用し集まった114万3千円で30群を購入した。ただ、その後も大量死が続く状況は変わっておらず、授粉用として果樹農家に貸し出す20群を購入し続けている。現在のミツバチの数は23群。「このままではミツバチを提供できなくなる」とため息をつく。
ネオニコチノイド系農薬について、欧州連合(EU)はミツバチ減少との関連が疑われることを受け、使用を制限している。一方、日本では農水省が地方農政局などを通じて各都道府県に▽農薬を使用する農家と養蜂家との情報共有▽巣箱の設置場所の工夫・退避―などを通知する慎重な対応にとどまっている。
ミツバチ大量死の原因を明確に示す研究結果は出ていないのが現状だ。農薬の影響のほかに寄生虫や感染症、気候変動の影響など、発生原因には諸説があり、真相解明にどれだけ時間がかかるかは分からない。苦しみ続ける大沼さんは、「国や政治家にはこの現状を受け止めてほしい」と声を絞り出した。
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