異変-生態系クライシス

>>山形新聞トップ >>異変-生態系クライシス >>第2部・森と林(4) 白竜湖、消滅の危機

第2部・森と林(4) 白竜湖、消滅の危機

2023/3/28 08:54
水の管理や湧水対策など、長期的な対策が必要となっている白竜湖=20日、南陽市

 南陽市の白竜湖は、約10万年前から形成されてきた泥炭層の上に浮かぶ湖である。かねて将来的な湿原化の可能性が指摘されてきたが、市教育委員会が2018年3月にまとめた環境調査報告書には一歩踏み込んだ言葉が並び、地域に波紋を広げた。「このような状態が続けば、白竜湖は今世紀中に消滅する可能性がある」

 報告書は「近年の白竜湖の深度はおおむね1年に1センチの速さで浅くなっている」と指摘した。周辺の田んぼとの水の流出入により、湖は泥の堆積や富栄養化が進んだ。とりわけ問題視されたのが、富栄養化により湖面を覆うように繁殖したヒシだ。枯れたヒシの堆積が、湖の深度に影響を与えていた。

 市は19年に集中的なヒシの除去を行った。対策は奏功し、浅くなる速さは1年間に0.5センチと半減したと推測される。しかし、中長期的な視点に立てば、富栄養化や湧水の維持など白竜湖を取り巻く課題は多く、専門家は「消滅の危機が消え去ったわけではない」と強調する。

 南陽市教育委員会が2018年3月に白竜湖についてまとめた報告書では、地形・地質、湖盆形態・水収支・水質、植物、魚類など6分野について言及されている。それによると、1939(昭和14)年に1.81メートルだった水深は68、69年に行った湖底のしゅんせつ工事で70年に2.78メートルとなったが、2017年には1メートルまで浅くなった。

 昭和初期から進められてきた周辺の大谷地の乾田化やかんがい事業で、白竜湖は農業用貯水池の機能も持つ。NPO法人最上川リバーツーリズムネットワーク代表理事で、以前から白竜湖など湖沼の調査、研究を行っている佐藤五郎さん(76)=長井市=は、報告書で湖盆形態・水収支・水質の分野を担当。周囲の水田から流れ込む泥水の堆積、それに含まれる窒素やリンによる湖水の富栄養化が問題だと指摘した。ヒシが繁殖し、枯れたヒシの堆積などが水位低下の一因とした。

湖面がヒシに覆われた2017年9月の白竜湖。その後除去され、現在繁茂は抑えられている=南陽市(佐藤五郎さん提供)

 南陽市は2019年8月、専用船を使ってヒシを除去した。翌年から2年間佐藤さんが行った調査ではヒシの繁茂は見られず、水質の改善や水位低下の速度抑制が確認された。ヒシが湖底に蓄積する現象が除かれ、湖水の循環が促されたことを意味する。

 地域住民も白竜湖の今後を注目している。白竜湖の自然を守る会の鈴木潤一郎会長(68)=南陽市三間通=は「地域の人たちに白竜湖の保全に興味を持ってもらえるようにしていきたい」とし、専門家を招いた講演会を開くなど、意識高揚を図っている。

 佐藤さんはヒシの除去は効果があったとしながらも「白竜湖の消滅を何とか先延ばしにした」に過ぎず、根本的な対策を講じていかなければならないと強調する。ヒシの抑制はもちろん、水田や果樹園から流れてくる富栄養化した排水が入り込まない工夫のほか、湖底の湧水対策が重要だという。かつては周辺に湧水地点が多く、量も豊富だったというが、土地改良事業などで消滅、縮小したものもある。

 北側と東西の山々は白竜湖の集水域となっており、水田や丘陵地に造成された果樹園からの水が湖の水質に顕著に影響している。白竜湖湿原化の問題もまた人々の営みと自然環境との関わり合い方の難しさをわれわれに突き付けている。

[PR]
[PR]