種の盛衰は自然発生的に生まれている。食物連鎖を含む生態系の中で、動植物は互いに影響を及ぼしながら、悠久の時を超えて生命を巡らせる。美しささえ感じる命の循環には、人間も組み込まれている。だが、人の営みは意図的に、あるいは無意識に自然の摂理に暗い影を落とす。
本県も例外ではない。県内野生生物の絶滅の危険度を評価・分類する「県レッドリスト」(哺乳類など)が2018年度に改定され、絶滅種だったニホンイノシシやホンシュウジカ(ニホンジカ)が除外された一方、掲載された動物は15種増えて69種となった。原因はさまざまだが、土地の造成や河川改修工事など、人の手によるところが大きい。
生活圏の拡大・整備は人々が暮らす上で欠かすことができない行為だが、自然を簡単に変えてしまうほどの力がある。身近な場所にさまざまな生き物がすまうが、普段、意識する機会はあまりない。動物たちは静かに姿を消すか、または牙をむいて、警鐘を鳴らしている。
目を閉じて、春から初夏の田んぼを思い浮かべる。すっかり日が落ちた水田地帯から聞こえてくるのはカエルの大合唱だ。騒々しくもなじみ深い光景。だが、現実のトノサマガエルは準絶滅危惧種となり、鳴き声を聞く機会は減りつつある。生き物の絶滅は、身近な場所でも進行している。
現在、県内では約50種の哺乳類が確認されており、2018年度に改訂された「県レッドリスト」には、20種が選定された。絶滅種はニホンオオカミとニホンカワウソ。準絶滅危惧種は「日本最古の哺乳類」と呼ばれるヤマネやムササビ、ヤマコウモリなど9種類に上る。いずれも森林の伐採や土地の造成による生育環境の悪化が要因とする。
人が自然環境に手を加えるのではなく、手放すことですみかを追われているのが、両生類や爬虫(はちゅう)類だ。カエルは水を張った田んぼなどの水辺環境を好むが、里山の荒廃や耕作放棄地の拡大で産卵場所を失ったという。圃場整備で生育環境が悪化したとの指摘もある。
一方、数が増えたことで脅威になりつつあるのが、イノシシと共に絶滅種から除外されたニホンジカ。近年、県内で生息域を広げつつあるとされる。県レッドリスト等掲載種選定委員会の委員長を務めた半沢直人山形大名誉教授は、シカの食性の幅広さに危機感を示し「植物を全て食い尽くし、森林の生態系を変えてしまうかもしれない」と警鐘を鳴らす。
人間活動は良くも悪くも自然に影響を与える。半沢名誉教授は「人の手によって個体数が減った以上、人が手を差し伸べないと全滅する」と指摘する。今も森の中で急激な環境変動に脅かされる種は少なくない。地球温暖化などの環境問題に直面する今こそ、生き物にとっての脅威ではなく、守り手にならなければならない。
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