スルメを餌にアメリカザリガニを釣り、縁日で「ミドリガメ」としてアカミミガメの幼体を購入した経験がある人は多いだろう。私たちの生活に身近なこの2種は北米原産の外来種で6月1日、外来生物法の改正に伴い「特定外来生物」に指定される。いずれも生態系への悪影響が問題視され、国が法規制に乗り出した。だが、この2種については「条件付き」とし、飼育と他人への譲渡はできるが、野外への放流などが禁止される。
本来、「特定外来生物」は飼育、栽培、保管、野外への放出などを規制している。今回、2種を「飼育は可能」という条件付きにした背景には、それだけ国内で飼育者が多い現状がある。一律で飼育を禁じると、規制の趣旨とは裏腹に野外への放流が一気に増え、かえって生態系への被害が生じる恐れがあるとの政策判断である。
環境省によると、全国でアメリカザリガニは約540万匹、アカミミガメは約160万匹が飼育されていると推定される。今回の法規制は、生態系の問題とともに、長く国内で生息して身近な生物として親しまれる存在となった外来種とこれからどう、向き合っていくかが問われている。
5月14日、鶴岡市大山地区の都沢湿地で外来生物の捕獲イベントが開かれた。国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に登録される上池・下池周辺の水路で、親子連れら約30人が網で水草や川底の泥を懸命にすくっていた。この日の主な対象は、外来生物法で6月1日に放流などが規制されるアメリカザリガニ。胴長を着て膝までの深さの水路に入り、網で何度も泥をすくい上げる。この作業に本紙取材班も参加した。
取材班は1投目で10センチほどの個体を捕獲した。その後はサイズが落ちたが、3センチ前後の小型ばかりが網に入る「入れ食い状態」に。参加児童は「こんなに小さいのもいるよ」と数ミリほどの個体を見せてくれた。この日、アメリカザリガニの捕獲数は1734匹に上った。
1週間前に仕掛けた大型わなには特定外来生物のウシガエルの姿もあった。脚を含めて体長30センチ超の個体を2匹捕獲した。ウシガエルは大正時代、食用を目的に米国から輸入され、アメリカザリガニはその餌として昭和初期に日本に入ってきたという人為的な拡散の経緯がある。大きな個体の捕獲は、その地を定住的な生息域としていることを意味する。
外来種の駆除作業は2012年から鶴岡市自然学習交流館ほとりあが実施している。ウシガエル、アメリカザリガニを中心とした駆除とともに定点的に環境の変化を観測しており、近年は大型のアメリカザリガニの生息数が減り、個体が小型化する実感を得ている。駆除作業の効果と言える可能性がある。
捕獲イベントの締めくくりで、ほとりあの学芸員・上山剛司さん(41)はコガムシ、ヒメミズカマキリ、キタノメダカなど、近年は姿を消しつつあった在来種が確認されたことを紹介した。中でもコガムシはほとりあ開所当初には見られなかった種で、外来生物の密度低下が種の復活をもたらした可能性があると強調した。
「外来種の密度管理を行い、持続的な駆除を模索したい」と上山さん。入り乱れる全ての外来種を排除するのは物理的には難しいとする。ならばこの地で、既存の水生生物が共生できる環境を保ちながら人の手で管理・維持できる可能性を展望していくという。
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身近な自然に県外、国外からさまざまな「外来生物」が侵入し、定着しようとしている。既存の生態系を破壊し、中には人に健康被害を及ぼす種もいる。第3部は外来種の脅威と対応について考える。
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