全国の河川などで在来魚への食害が問題となっているブラックバス(オオクチバス、コクチバス)。中でも北米原産の特定外来生物であるコクチバスは最上川をはじめ県内の河川で繁殖し、生態系への影響が危惧されている。
ブラックバスは1925(大正14)年に箱根の芦ノ湖に移入され、その後、次々と全国に生息域を拡大した。本県では70年代からオオクチバスが見られるようになり、2000年代に入ってコクチバスが分布域を広げている。
ブラックバスは釣りの対象魚として1970年代から2000年代にかけて全国的なブームを巻き起こした。拡散の要因として釣り愛好者による密放流が指摘される。
ブラックバスは他の特定外来生物と違い、レジャーとしての側面を持ち合わせていることが問題を難しくしている。
本県の各内水面漁協が管理する水域では、釣った後にその場で放流する「キャッチ・アンド・リリース」(再放流)を禁止する県内水面漁場管理委員会指示が17年から適用されている。ブラックバスへの対応には、人のモラルが問われている。
ブラックバスの腹を割くと、胃の中には数匹のアユが詰まっていた。「かなりの量を食べている」。白鷹町の道の駅白鷹ヤナ公園あゆ茶屋の駅長・樋口和貴さん(42)は、産卵のために河口に向かうアユを捕らえる「やな師」。最上川の清流が育むアユは同町にとって重要な観光資源だが、そのアユが減り続けている。
ヤナ公園直下の最上川で行われる伝統の「やな漁」は、木製の骨組みの上にすだれを置き、そこに流れ込む魚を捕る仕組み。5年ほど前からコクチバスの姿が確認されるようになり、アユの漁獲量にも異変が生じた。「5千~1万匹は捕れていたアユが3千匹程度に落ち込み、おととしも昨年も千匹程度になった」と樋口さんは語る。
頻発する水害や河川改修による環境の変化、川魚を捕食する「カワウ」の影響など、アユの減少にはさまざまな要因が考えられるが、その一つがブラックバス。町は町観光協会に委託し、ある取り組みを2020年度から始めた。
町内の最上川のブラックバスを1匹300円で買い取る、長期間の釣り大会開催だ。20年度は265匹、21年度は964匹、22年度は1633匹を買い取った。本年度の大会期間は5月16日~10月31日。先着100人の登録制で、本紙記者も登録した。今月中は雪解け水の影響で川が濁り、本格的に釣れ出すのは6月以降だという。
抜本的な駆除に至るかは不透明だ。それでも、ブラックバスが特定外来生物であり、山形、上山両市を除く最上川では捕殺が義務づけられることを周知する機会になる。大会には、そうしたモラルに訴える狙いもある。
遊漁料収入を得る西置賜漁協にとってアユの減少は経営への打撃だ。伊藤一義組合長(73)は、アユ減少にはカワウや護岸工事の影響など複合的な要因があるとし「このままだと経営は10年ももたない。行政、住民と一体にならなければ、後世にこの川を残すことができない」と強調した。
県内でブラックバスがどれだけ繁殖しているかを示すデータは乏しい。言い換えれば「見えない」からこそ、各地で生息域を広げている。その代償として、大切な地域資源がむしばまれ始めている。
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