異変-生態系クライシス

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第3部・外来生物(5) セアカゴケグモ

2023/5/30 08:33

 光沢のある黒色、腹部の背面に赤色の模様。体長1センチ程度の特定外来生物「セアカゴケグモ」が県内で初めて見つかったのは、2016年11月のことだった。中古車のバンパーの裏に雌1匹と卵2個が付着しているのを山形市の自動車整備業者が発見した。

 雌には毒があり、かまれると全身に痛みが広がるほか、筋肉のまひなど重症化するケースもある。当時は県の担当者が駆除し、被害は確認されなかった。以来、本県で報告事例はないが、ほぼ全国に生息域を広げており、生態系に影響を及ぼすだけではなく、人間に危害を加える危険性が生じている。

 クモ分類学が専門の加村隆英追手門学院大名誉教授は「国内で根絶することはほぼ不可能で、いることが当たり前になるかもしれない」と警鐘を鳴らし、「外来生物についてもっと知識を身に付け、分布拡大を抑える努力をするべきだ」と強調する。

県内で発見されたセアカゴケグモの雌と卵。分布域は、ほぼ全国に広がっている=山形市(県提供)

 セアカゴケグモはもともとはオーストラリアに生息し、国内では1995年に大阪府で初めて見つかった。輸入コンテナなどに付着して国内に侵入し、その後、物流に乗って国内各地に広がったとみられる。2020年時点で青森、秋田両県を除き、43番目に確認された本県を含め、45都道府県に生息しているとみられる。

 加村隆英追手門学院大名誉教授によると、繁殖能力は他のクモとあまり変わらない。ただ国内に競合種や天敵がほとんど存在しないため、繁殖しやすい環境にあるとみられる。かみつく習性はあるものの、手を出さなければ攻撃されることはないという。

 同じ特定外来生物のアメリカザリガニやウシガエルは自然の中で生息するが、セアカゴケグモは人工的な場所に潜む。公園や校庭のベンチ下、民家の庭のプランター、エアコンの室外機の隙間…。人の営みに溶け込むように巣を張り、繁殖する。環境省は発見した場合、素手では触れず、殺虫剤を使ったり、踏みつぶしたりして駆除するか、市町村や保健所に連絡するよう呼びかける。

 国内での約30年前の初確認は大きな「異変」だった。だがその危機感は薄れつつある。加村名誉教授は「セアカゴケグモに限らず、外来生物に関する知識や関心は一般的にかなり低い。少しでも分布拡大を抑えるためには、多くの人に現状を知ってもらう必要がある」と、正しい情報と知識の発信が重要と指摘する。

 外来生物を持ち込んだのは人間だ。入ってきた生き物は自然の摂理に従って繁殖しているだけとも言える。だが、加村名誉教授は「持ち込んだのは人間だからこそ、責任を持って本来の自然環境が破壊されかねない状況を回避する方策を取らなければならない」と力を込める。「外来種の侵入は、人間界の異文化交流とは全く別だ」。生態系を守るためには、時に生き物に厳しい対応を取らなければならない。

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