異変-生態系クライシス

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第3部・外来生物(9・完) 生物多様性の維持・専門家に聞く

2023/6/4 12:41

 第3部では、外来生物が在来種に及ぼす影響を見てきた。外来種問題に対応しなければならない理由を考えた時、その答えの一つは気候変動や人による開発などの影響と併せ、生物多様性を失わせる大きな要因となるからだと言えるだろう。

 生態系は、長い進化の過程でさまざまな生き物がつながり合って形成される。生物多様性の喪失は、われわれが自然の恩恵を受ける「生態系サービス」が損なわれていくことを意味する。例えば海や川でこれまで食べてきた魚を捕る、山を守り木材を建材に使う、保水機能を保ち災害を防ぐ―といったことが、できなくなる可能性があるということだ。虫が植物の受粉を媒介し、その種子を鳥や獣が拡散するように、生態系は絶妙なバランスの上で成り立っている。

 外来種の駆除が各地で繰り広げられる中で、専門家は「何のためにやるのか、何が守られるのか、どこを目指すのか、といったことを明確にしないといけない」と提言。駆除そのものを目的化することなく、生態系の全体像に目を向ける必要性を訴える。

生態系そのものに目を向ける必要性を強調する永幡嘉之さん=山形市

 県内外で里山の保全活動を展開し、生態系に詳しい自然写真家の永幡嘉之さん(50)=山形市=は「外来種を駆除することは必要だが、人が向き合わなければならない他の問題から目を背けるスケープゴートになっては本来の目的を失いかねない」と強調する。

 生物多様性が失われる要因は外来種のほか、気候変動、環境汚染、開発行為などの影響が考えられる。言い替えれば、外来種を排除しても生物多様性の危機が去るわけではない。「『だったら駆除しても意味はない』という意見があるが、そうではなくて生態系そのものに目を向ける必要があるということだ。復元の明確な目標を立て、そのために何が必要かを考えたい」

 永幡さんは生態系保全の策としてゲンゴロウの例を挙げる。永幡さんが出身地の兵庫県から本県に移住した25年ほど前、ゲンゴロウは県内各地の水辺にいたが、特定外来生物のブラックバスやアメリカザリガニなどの影響で、県内では山辺町などに広がる「県民の森」など極めて限られた場所にしかいなくなった。永幡さんは「一度外来種が入ってしまうと、環境の改善は非常に難しい」とした上で、生き残るゲンゴロウを守る策として、外来種から隔離した「ホワイトエリア」を設定する案を提言する。

 外来種が侵入するリスクを分散させるため、10カ所ほどの池が隣り合うエリアを選定する。そこから2キロ圏内では外来種を徹底的に排除し、このエリアの生態系を死守していくという考えだ。

 大規模かつ長期的な取り組みになるため、実施には住民やNPO法人、行政などの力が必要になるだろう。永幡さんは「こうした保全活動が実現すれば日本でゲンゴロウは生き残ることができる。しかし実現しなければ、50年ももたずに絶滅する」とし「今やれば間に合う」と力を込める。

 50年後は次の世代、そしてその次の世代が生きる時代だ。豊かな生態系を後世に残すことができるかどうかは、今の時代を生きる私たちの行動に懸かっている。=第3部おわり

 永幡嘉之(ながはた・よしゆき)さんは1973年兵庫県生まれ。信州大大学院修了。専門は保全生態学。著書に「フォト・レポート 里山危機」など。

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