音読・山形の民話

　むかしあったけずまな。

　「おら、飯食（ままか）ね（※）おかた欲しい」ていた家に、きれいなおかたが来たげんど、米びつの米はいつも空になってるんだど。

　ある日、旦那（だんな）は天井に上って見ったど。おかたは飯を炊いて、赤子の頭ほどのおにぎりを鍋の上に並べて「ほら、次郎も食え、太郎も食え」て、髪を結ってた紐（ひも）をとくと、そこさ大きな口があっておにぎりをみな入れたんだ。旦那は「あっ」て声をあげてしまったど。

　山姥（やまんば）に変身したおかたは旦那を桶（おけ）に入れ、背負って山の方へすごい勢いで走りだした。旦那は両手が松の枝に触れたもんで、ぶらさがって桶から出て村里の方さ走った走った。山姥は川岸の近くに（※）もじゃぐれて生えているヨモギの強いにおいと、刀の先のように輝く菖蒲（しょうぶ）の葉先におそれをなして、追って来れなかったど。

　だから5月5日の男の節句に、ヨモギと菖蒲を束ねて家の軒にさし、夕方は菖蒲湯に入り、ととはトックリにさして神棚に供えて、家人が一枚ずつ口に入れるようになったんだと。（※）とーびんと。