むがしのごんだったど。隣の海端の領主から、贈り物があったど。さっそく魚屋が呼ばれで、「これは何という魚だ」て、聞かっだど。
春先の天気が続いで、生の(※)カスベはからからに乾いでしまったもんで、カラガイと呼ぶもんだど。
「はい、カラガイと申す魚でございますだ」て言うど、役人の1人が、「いや、カスベだべ。生ものはカスベていうんだべ」。
そいづを聞いだ殿さま、「魚屋さ、縄かげろ。同じ魚ば、カスベと言ったり、カラガイと言ったり、とんでもない。(※)獄門だ」て言うたど。
そごさ魚屋の息子、飛んできたど。したら、魚屋は息子さ「ええが。これがらはイガの干したのばスルメと言うたり、カスベの干したのば、カラガイと言ったりしていけないぞ。獄門になっからな」
それを聞いでだ殿さまは、「そうが。生と干したのでは名が違うごどもあるか。よし、無罪放免だ」てだど。
その殿さまはある日、百姓がら蕪献上さっで、柔くて、うまがったもんで、「これは(※)肥料を毎日少しずづ掛げで、育でだもんでござります」と聞いたど。たまたま堅い菜を食ったどぎ、側の役人さ、「こりゃ、堅いぞ。いそいで肥料を持ってまいれ、これに掛げで食ったら、柔ぐなんべ」てだど。とうびんと。