むがす、(※)上郷に伊佐ていう大泥棒いだったど。石川五右衛門ていう泥棒ど、肩並べるごどのでぎるほどの泥棒だったど。
そんな伊佐だがら、子どもの頃がら、かなり(※)聞がない子だったべ。おどっつぁは伊佐が悪いごどすっど、酒造りのどぎに使う(※)6尺もある桶の中さ入れで、「こごさ入って、よぐ考えでみろ」て、ビシンと戸を閉めで行ってしまったど。
伊佐は、さっそぐ帯を解えで、その端ばきづぐ結んで、ひょいと桶の縁さ引っかげで、蔵の中をあそんで歩ぐのだど。昼になっど、おっかが(※)やぎめしを、そっと持ってきてくれるんだど。
戸がカラカラと開いだがら、おっかが昼飯持ってきてくれだんだべどで、伊佐は帯の結び目ば、ひょいと桶の端に引っかげで、するすると登ってきたど。とごろが来たのは、おっかでなくて、おどっつぁだったがら「あっ、おっかだど思たら、おどっつぁだ」て、頭かぎかぎ「おどっつぁ、ごめんして(※)おぐやい。こんどがら、決してこんなごどしねがら」て言うたど。
こいづにゃ、おどつぁもあぎれて、苦笑いして、こつんと伊佐の頭を叩いで、許してやったけど。こんな子どもの伊佐だがら、大人になってがらは、大泥棒になったげんど、盗んできたものは、貧乏な家さ、こっそりくれでやったもんだど。とうびんと。