昔、(※)黒川さ孫三郎ていう(※)せやみ息子いだけども。嫁もらったばまじめに稼ぐようなったけど。そえでも嫁さ惚れ過ぎで、毎日嫁の面ばっかり眺めで、まだ仕事しなぐなったけど。
親衆困ったば、嫁「いい考えある」て町さ行って、大き紙さ絵姿(似顔絵)描いでもらってきて、孫三郎さやって「これ見ながら稼いでくれ」て言ったけど。それがら孫三郎、畑でその絵姿見ながら稼ぐようなったけど。
ある日、孫三郎稼いでいだば大風吹いできて、絵姿空の方さ吹っ飛ばさえでしまったけどや。そして町のお城の松の木の枝さ引っかがったけど。それ殿様さ見せだば「こげだきれいな女子探してこい」て命令したけど。家来達、あちこち探して孫三郎の嫁見つけで、むりむり殿様の所さ引っぱってきたども、それがら嫁、下ばっかり向いで、とんと笑わなぐなったけど。
秋なったば、孫三郎栗売りなって、町さ触れできたけど。嫁その声聞いでにこって笑ったば、殿様その栗みんな買って嫁さ食せだけど。
その後まだ栗売りきたば、殿様「その栗売り城さ連れでこい」て命令して、孫三郎どご連れできたけど。そして孫三郎の着物ど自分のど取りがえで、殿様栗売りなって出はっていったけど。
孫三郎は代わりの殿様なったけど。嫁「城中の門みんな閉めで、誰来ても開げるなよ」て言ったけど。殿様は栗売れなぐで晩げなったさげ、城さ戻ってきたども、門みな閉まって入られねけど。
城の中で孫三郎夫婦、仲よぐ暮らしたども、やっぱり村の方がいいって、能の面などもらって黒川さ帰ったけど。そして村の衆さ能教えで、それが黒川能の始まりなったけど。
トンピンカラリネエケド。