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丸十大屋社長
佐藤利右衛門氏
佐藤利右衛門氏
【インタビュー】
 -業界と自社の現状、力を入れている取り組みは。

 「しょうゆの出荷量は減少傾向にあり、全国的に1980(昭和55)年と比較して3分の1程度になっている。祖父の6代目利右衛門がしょうゆ風調味料『味マルジュウ』を開発、発売したのは55年前。しょうゆの安売り競争に巻き込まれるのを避けるためだった。常に時代の先を見据え、変化を続けてきたと言える。昨年に完成した『蔵膳屋』も時代に合わせた業態転換の一つ。商品を一堂に集め、手に取ってもらうとともに、イートインコーナーで、しょうゆ、みそを使って新たに開発したスイーツなどを味わっていただいている。新商品の開発には常に取り組んでおり、10月には手軽にみそ汁を味わえる『液みそ』を発売する。輸出は85年ごろから始め、現在はアジアが中心。しょうゆよりもめんつゆや照り焼きのたれ、ぽん酢の需要が大きい。既に価格競争になってきているが、海外市場には可能性を感じている」

 -求める人材と人材育成の取り組みは。

 「製造、営業、開発、総務の4部門があり、欠員が出た時に採用している。6代目が定めた『6大主義』を社是としている。親和協調、誠実公明、創意研究、責任完遂、安全衛生、感謝報恩の六つで、なかなか全ては難しいとは思うが、これらを備えた人物を期待している。またそうした人物を目指してほしい。ものづくりへの関心も欠かせない。年2回、全社員を集めた研修会を開いている。チームワークや協調性を育んだり、部門の垣根を越えて、会社の現状や業界、消費者動向などの情報を共有したりしている。食品衛生や商品開発に関する外部研修会にも積極的に社員に出席してもらっている」

 -仕事上で最も影響を受けた人物は。

 「セゾングループ代表で西武百貨店社長・会長だった堤清二氏だ。大学卒業後に西武百貨店に入った。『有楽町マリオンの店舗の地下1階を全部酒売り場にする』という社命があり、全国の酒蔵を回り買い付けをした。入社間もない社員にも重要な仕事を任せてくれる会社だった。1階の売り場で英国製高級乗用車2台も展示販売したのは、堤氏の『坪効率を上げる』という判断だったようだ。メザシの目に荷札を通し、ダイレクトメールとして送ったりもした。堤氏の『感性を売る』経営や、発想を変える大切さを6年間で学んだ」

 ★佐藤利右衛門氏(さとう・りえもん) 日本大法学部卒。1985(昭和60)年、西武百貨店入社。1991年、丸十大屋に入り2008年から現職。18年に8代目利右衛門を襲名した。県醤油味噌工業協同組合副理事長を務める。山形市出身。56歳。

 ★丸十大屋 1844(天保15)年に紅花商として創業。明治中期にみそ醸造業に業態転換し、大正時代にしょうゆ醸造を始めた。1964(昭和39)年、しょうゆ風調味料「味マルジュウ」を発売。商品は香港、マレーシア、インドネシアなどに輸出しており、2014年にはしょうゆ製品では国内メーカーで初めて「ハラル認証」の公的認証を取得した。18年に新たな本社と工場、店舗「蔵膳屋」が完成。イートインスペースでは自社製のカレーやスイーツを提供している。社員数42人。酒田市に庄内営業所を構える。本社所在地は山形市十日町3の10の1。

【私と新聞】新商品の情報、社員と共有
 佐藤利右衛門社長は山形新聞と全国紙、経済紙4、5紙と業界紙に目を通す。「1面で扱う記事がそれぞれ違う。なぜ違うのか論評を比較しながら読むのが面白い」と話す。

 小さな子どもがいる社員には「新聞を広げている姿を見せないと駄目だぞ」と言ってきた。最近の「スマホのニュースがあれば十分」という声に首をかしげる。スマホ向けニュースは閲読傾向に合わせ配信記事が変わる「個別化」が進んでおり、好きな分野や関心がある分野の情報ばかりに接するようにならないかと懸念する。

 食品衛生関係や新商品の情報など社員に読んでもらいたい記事はクラウドサービスを利用して共有している。「県内企業を扱うことが多い山形新聞経済面の情報センサーにも注目している」

【週刊経済ワード】SIMロック
 スマートフォンや携帯電話端末に自社の通信回線しか使えないように制限をかけること。分割払いの期間中に端末の詐取を防ぐ目的などで導入されている。通話やデータ通信には契約者情報を記録したICカード「SIMカード」が必要だがロックした端末は他社のカードを受け付けなくなる。携帯電話各社にとっては顧客をつなぎ留める効果が期待できるが利用者にとっては選択肢が狭まるなどのデメリットがある。
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