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JA山形おきたま組合長
木村敏和氏
木村敏和氏
【インタビュー】
 -業界の現状と農協が果たすべき役割とは。

 「農業全体の課題で一番大きいのは就農者の高齢化と後継者不足だ。この流れは今後3~5年間、加速すると思われる。対策として農業にも人工知能(AI)の導入が進むと考える。自然界が相手なので難しい側面もあるが、これまで培った多くのノウハウを入力することで最適な栽培計画を導き出すなど、AIを駆使した農業ができる時代がすぐそこまで来ている。特に施設園芸ではAIの力が十分、発揮できるだろう。農協の運営に関しては、毎年、就職を希望する人が少ないことが懸念される。若い人に農協で働くことに興味を持ってもらおうと、グミやワインなどの新商品を開発し、コンビニエンスストアなどにも出品している。効果は出ており、店で商品を見掛けたことがきっかけで『興味を持った』と志望理由に挙げてくれた人がいた」

 -どのような人材を求めているのか。

 「最近は同じような意見を述べる職員が多くなっているように感じる。だからこそ、個性的な考えを持つ職員の特性を伸ばしてやる必要があると考える。農業のデジタル化が進めば機械操作、仕組みが理解できる人材が不可欠だ。農家、農協職員を含め、早い変革に対応できる若い人材が求められる。そんな中、明るい兆しもある。米沢牛に代表される畜産やデラウェア、ラ・フランスなどの果樹は若い担い手が増えている。収益性が高いからだ。主力の米も若い世代が千俵以上、出荷する組織『千俵会』を作って頑張っている。まずは伸び盛りの若手を集中的に育て、全体の底上げを図りたい」

 -仕事上で影響を受けた人物と、その教えは。

 「JA山形おきたまの初代組合長となった舩山達郎氏だ。常々言っていたのが、組織の中で一番大事なのは『丸く収める』こと。言葉だけでは後ろ向きな意味に取られてしまうかもしれないが、農協の理念は、米沢市出身で大日本産業組合中央会(全国農業協同組合中央会の前身)の初代会頭を務めた平田東助も主張した『共存同栄』と『相互扶助』だ。とかく『俺だけ』『今だけ』という風潮の中、舩山氏の言葉は、こうした協同の理念を言い表している。後の代にも継承して行きたい考えだ」

 ★木村敏和氏(きむら・としかず) 旧赤湯園芸高卒。卒業後すぐに家業を継いで就農。1987(昭和62)年5月にJA米沢市理事となり、合併後のJA山形おきたま理事、同代表理事専務、経営管理委員会会長などを歴任し、2015年6月から代表理事組合長。県農協代表経営者協議会長、県農協中央会理事なども務める。米沢市出身。71歳。

 ★JA山形おきたま 置賜地域8市町をエリアとする広域JA。地域内の9総合JAと1専門農協が合併し1994年4月1日に設立された。2018年度の販売取扱高は211億1652万円。組合員数3万2人、役職員数計670人(今年3月末現在)。本店所在地は川西町上小松。

【私と新聞】コラム、あいさつの参考に
 木村敏和組合長は朝、自宅で山形新聞に目を通し、主に周辺地域の話題などを集めるのが日課だ。出勤してからは農業、経済の専門紙も開いて国内、海外の動向をチェックする。ストレートニュースはもちろんだが、日々楽しみなのが本紙1面「談話室」などのコラム。役職上、あいさつを求められる場合が多いので、気に入ったフレーズなどを「よく参考にさせてもらっている」という。またコラムの内容から、ニュースに対する自身の感覚にずれが生じていないか「確認する試金石にもなっている」と述べた。

【週刊経済ワード】関税交渉
 農産物や工業製品にかかる関税の引き下げや撤廃に関する交渉のこと。相手国との貿易を増やすことで経済成長につながる利点があるが、国内産業の保護が課題になり、交渉に長い時間を要することが多い。近年は環太平洋連携協定(TPP)のように、サービス貿易やルール分野を含む包括的な経済連携協定(EPA)が目立つ。日米両政府が署名を目指す貿易協定は、対象を関税とデジタル貿易のルールに絞った。
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