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ナウエル社長
酒井登氏
酒井登氏
【インタビュー】
 -新型コロナウイルス禍で冠婚葬祭業界は深刻な打撃を受けている。業界、自社の現状は。

 「業界はかなり影響を受けている。当社も今年2月期時点で、総合式場2施設とホテル1施設の売り上げが前期比75%減となった。ただ業界ではコロナ前から、そもそも楽観的な未来予測をしていない。人口減少に加え冠婚葬祭の簡素化が進む中、単価は落ち込む予測をしていた。コロナにより5年、10年先の未来が来たと捉えている」

 -現状を踏まえ、新たに取り組むことは。

 「暮らしや地域にしっかり寄り添い、貢献していくことが必要ではないかと考え、新会社を立ち上げた。結婚式、葬儀は今後収益性が落ちる業態。ただ、これらに関わることは企業としてはアドバンテージが大きく、コミュニティーにとって重要な文化でもある。『点から線へ』をキーワードに、冠婚葬祭事業を守りつつ、人生のイベントの前後にも関わろうと、人手が不足している訪問介護や家事代行を展開するナウエルサポートを昨年10月に設立した。地域課題の空き家管理にも取り組む。今月、遺品整理や遺産相続、墓じまいといった分野でサービスを提供する『くらしの案内所』も立ち上げた。今後は終活にも関わりたい」

 -求める人材は。

 「個性を生かし、チームとして強くなれればと考える。自分の強み、弱みを知った上で自ら動ける人が必要だ。現代は情報が多く変化が速い。1人の人間が全ての情報を得て全てを決定する方法では、変化についていけない。自分で情報を入手し、ある程度判断し、物事を動かせるメンバーが重要になる。変化のストレスをある程度楽しむ、自ら変化を起こしていくという姿勢も必要だ」

 -仕事上、影響を受けた人物は。

 「京セラ創業者稲盛和夫さんの経営塾での出会いに刺激を受けた。稲盛さんの『動機善なりや、私心なかりしか』という言葉を胸に自分自身の行動、判断を振り返るようにしている。新会社を設立するような場面を含め、仕事上の判断に大きく影響している。もう1人は、一緒に会社(スマートライフ)を設立したパートナーで東北警備保障(米沢市)社長の武田誠一郎さんだ。行動力がすごく、勇気をもらっている」

 ★酒井登氏(さかい・のぼる) ニューヨーク市立大ハンター校修士課程を修了後、2007年に中国・上海の日電信息系統有限公司に入社。システムエンジニアとして勤務し09年、ナウエルに入社。常務、副社長を経て20年5月、社長に就任。14年にはサービス付き高齢者向け住宅、フィットネスを展開する関連会社スマートライフを創業し、現在も代表を務める。米沢市出身。40歳。

 ★ナウエル 酒井社長の祖父酒井巌氏が1946(昭和21)年に創業した酒井生活化学研究所(後の北陽食品工業、現HKY)の子会社として80年に設立。置賜に冠婚葬祭施設とホテル計19施設を持つ。20年ナウエルサポート、今月「くらしの案内所」を設立し訪問介護、暮らしの困りごと解決事業に乗りだした。社員数183人、資本金2千万円。本社所在地は米沢市松が岬2の1の19。

【私と新聞】ユニークな動き、刺激に
 酒井登社長は毎朝、出勤後の日課を終えた後に新聞を広げる。職業柄お悔やみ欄には必ず目を通す。目が行くのは地域創生系や知人が登場するニュースだ。
 最近気になったのは、呉服のとみひろ(山形市)などが白鷹町で古民家を活用して開業した宿泊施設や、南陽市が民間譲渡した温泉保養施設ハイジアパーク南陽の今後の展開、知人が関わった河北町商工会のアンテナショップ「かほくらし」の話題など。庄内町の自然を生かしたフィンランド化プロジェクトも面白いと感じたという。
 酒井社長は「特に同じ置賜地域でユニークな動きがあると刺激になるし、出掛けてみることもある」と語った。

【週刊経済ワード】非公式経済
 公式の統計で把握されにくい露天商や靴磨き、家業手伝いなどによる生産活動を指す。課税や規制を受けず、社会保険の対象にもならないケースが多い。国際労働機関(ILO)は世界で20億人が非公式経済で生計を立てていると推計。日本でも雇用の約2割を占めるとしている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界的な不況で大きな打撃を受けた。(ワシントン共同)
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