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大商金山牧場社長
小野木重弥氏
小野木重弥氏
【インタビュー】
 -自社や業界の現状は。

 「豚肉の生産、加工、流通を手掛ける。最近は和牛の生産にも乗り出し、一貫生産体制の垂直展開をしている。売り上げは大きくはないが、生産物へのこだわりを持っていることが強みだ。元々は豚肉の加工と流通だったが、欧米との内外価格差が大きくなり生産者が減少し続けていたことから、2008年から養豚にも進出し、自ら一貫生産を行うようになった」
 「量販店や生産者の大規模化が進み、流通、加工の中間業者は淘汰(とうた)される懸念があった。輸入飼料への依存体質を解消するため地元の飼料用米を活用し、ふん尿は堆肥として活用してもらう循環型農業に取り組んでいる。ふん尿だけでなく、地域の食品廃棄物を使いバイオガス発電も行っている。本社を置く庄内町が先進地だったことから、風車を建設し風力発電にも参入した。安全で安心な食肉を提供し、地域の外食産業とも連携して食とエネルギーの自給、地産地消を進めている」

 -求める人材や能力は。

 「『来る者は拒まず、去る者は追わず』が基本方針。どんな人でもわが社を選んでくれるなら歓迎する。休みや働き方の改革を進め、選んでもらえる会社を目指している。あえて求める人材を挙げれば肉が好きで、自社の製品を愛せる人だ。求める能力も特別ないが、自分で成長しようとする向上心。あとは『自分が経営者だったらどうするか』と考える力だ。社内を見てもその力がある社員や役員は、壁にぶつかっても乗り越えられる」

 -影響を受けた人物は。

 「何といっても創業者で父の(覚)会長を抜いて語ることはできない。農家の長男で自らこの業界に飛び込み会社をつくった。ゼロからつくり上げる力は自分にはないと思っている。父が好きな『夢、挑戦』という言葉がある。成功するまで続ける、チャレンジすることが大切だということを引き継いでいる。人物ではないが学生時代、いずれ会社を継ぐことを意識しながら手に取った帝王学の指南書『貞観政要(じょうがんせいよう)』にも影響を受けた。座右の書となっている。リーダー論であり、真のリーダーになるためには謙虚であれ、と教わった本だ」

 ★小野木重弥氏(おのき・しげや) 鶴岡西高卒業後、1992年に前身となる肉の大商に入社。日本ミートアカデミーで研修し、93年7月に常務兼本部長、2002年10月に専務に就任。09年9月から現職。鶴岡市(旧藤島町)出身で、現在は酒田市在住。53歳。

 ★大商金山牧場 小野木重弥社長の父・覚会長が1979(昭和54)年に酒田市で東北日本ハムの加工を担う「肉の大商」を設立。2008年から一貫生産体制を構築し酒田、山形、秋田、青森などに拠点を設けた。12年に金山最上牧場と合併し、現在の大商金山牧場に社名を変更。保育園設立でのワーキングサポートや再生可能エネルギー事業にも取り組む。資本金1億円。従業員数は約400人。本社所在地は庄内町家根合字中荒田21の2。

【私と新聞】脱炭素、最新の情報入手
 小野木重弥社長は毎朝、コーヒーを飲みながらスマートフォンでデジタル版の新聞を読むのが日課だという。循環型農業やSDGs(持続可能な開発目標)、脱炭素に関する記事を読むことが多いという。
 特に、脱炭素の取り組みは日々、最新の情報を入手するようにしている。「制度や政治の動きを注視しておかないと、新しい概念にはついていけない。アンテナを高くしておく必要がある」と話す。
 豚肉の生産、加工、販売だけでなく、地域でさまざまな取り組みを進める中で情報発信のツールとしても新聞を重視している。「SNS(会員制交流サイト)で発信できる時代だが、新聞に取り上げられる活動や取り組みは客観的な視点もある」と語り、「公共性のあるものだからこそ、情報を信じるための基軸になる」と続けた。

【週刊経済ワード】ローカルフードプロジェクト
 地域の中核的な食品企業などが中心となり、持続的な事業の確立を目指す取り組み。異業種間の技術連携や、販路開拓などを政府が支援している。2021年度内に事業の構想から試作品の製造、販売などを実施し、その後に課題を検証する。事業戦略の検討などを後押しするため、食や農に関わる専門家を派遣する支援もある。
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